From: 岡崎 匡史
研究室より
1945(昭和20)年9月2日、日本帝国はミズーリ号艦上で降伏文書に調印した。
降伏調印を終えた直後、ジェームズ・F・バーンズ米国国務長官(James F. Byrnes・1882〜1972年)は、日本の降伏が「物的武装解除」だとしたら、次なる目標は日本人の「精神的武装解除」であると旗頭を掲げた。
「精神的武裝解除は銃劍の行使や命令の通達によつて行はれるものではなく、過去において眞理を閉ざしてゐた壓迫的な法律や政策の如き一切の障碍を除去して日本に民主主義の自由な発達を養成することにある」
バーンズ国務長官は、対日占領政策の青写真を示した。
国家機軸
GHQは、日本に新たな体制を築き上げるには、天皇を中心とする国家体制、その幹となる「機軸」を崩壊させることが先決であると考えた。
アメリカは「民主主義」という新たな「機軸」を敗戦日本に植えつけたい。そのためには、日本人の再教育が急務であった。
日本の占領政策は太平洋戦争の最中から計画されており、日本の軍国主義を一掃し、自由で民主的な路線を促す。さらに、ナチズムのイデオロギーに対抗するため、アメリカの永続的な安全を確保するという米政府の戦略的な発想であった。
思想統制
日本人の「精神的武装解除」に関するアメリカの政策は、3点に集約される。
(1)日本の学校と教育行政機関の改革指導
(2)民主主義思想を宣伝するためのメディア報道と表現の統制
(3)生徒と教師だけでなく、一般成人も再教育の対象とする。
これはアメリカが敗戦国日本に強制した「思想統制」である。
日本を民主主義に転換させ自由をもたらすために、「自由の強制」とも言える皮肉な状況に日本は置かれた。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・Mayo, Marlene J. 1980. "Psychological Disarmament: American Wartime Planning for the Education and Re-Education of Defeated Japan, 1943-1945." in Thomas W. Burkman, eds. The Occupation of Japan: Educational and Social Reform, Norfolk: MacArthur Memorial.
・「日本の精神的な武裝も解除」『朝日新聞』1945(昭和20)年9月4日
・久保義三『対日占領政策と戦後教育改革』(三省堂、1984年)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。