From: 岡崎 匡史
研究室より
「ナイル取水『紛争』」
久しぶりに新聞を読んでいたら、ナイル川の記事が目に留まった。
「エチオピアはナイル川上流にあたる青ナイル川で巨大ダムを建設しており、水資源の9割以上をナイル川に頼るエジプトとスーダンは、『貯水が進めば、下流の取水量が激減する」と警戒している(・・・中略・・・)エジプトのアブドルファタハ・シン大統領は4月、『我々の水に手を出せば、あらゆる手段を模索することになる」と軍事行動を辞さない構えを示した」(『読売新聞』2021年7月7日)
川をめぐる国際紛争は、「Hydropolitics」や「Water Politics」と呼ばれる。政治学、国際関係、地政学、歴史学、地理学、水資源管理、水文学など横断的な知識が求められる学問領域だ。
ナイル川
古代ギリシアの歴史家ヘロドトス(Herodotus・BC484〜BC425)は、「エジプトはナイルの賜物」という有名な言葉を残している。
エジプト文明の発祥をもたらしたのは、世界最長6650kmを誇るナイル川。ナイル川流域で約2億5000万人もの人々が生活を営んでいる。エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、ルワンダ、ブルンジ、コンゴ民主共和国のアフリカ大陸10ヵ国の民が恩恵を受けている。
ナイル川は「青ナイル川」と「白ナイル川」から育まれる。
青ナイル川はエチオピアのタナ湖を源流とし、白ナイル川は中央アフリカ東部のヴィクトリア湖から発している。青ナイル川と白ナイル川はスーダンのハルツームで合流し、ナセル湖の「アスワン・ハイ・ダム」を経て、エジプトの首都カイロから巨大な三角州を形成して地中海に流れ込む。
上流・下流の争い
アフリカ大陸北東部に位置するエチオピアは、その地形から「アフリカの角」と呼ばれる。「エチオピア」はギリシア語で「イティオプス」(日に焼けた人々)という意味。
ナイル川上流のエチオピアは、アフリカ大陸のなかでは最古のキリスト教国。下流にあたるエジプトは、イスラム教国。エチオピアとエジプトは、宗教的にも相容れない。
地政学上優位に立つエチオピアは、「ナイルは自国が好きに使う」と脅し文句を使う。 エチオピアがナイル河上流で巨大ダムを建造すれば、エジプトのアスワン・ダムへの流入量が減少する。
エチオピアは、2011年に念願の「大エチオピア・ルネサンスダム」の建設に着工。総貯水量は740億立方メートル。2020年にダムへの貯水がはじまり、ダムの貯水量を満たすには4年から7年かかるとの目算だ。2021年も、ダムへの貯水に踏み切った。
エジプトは猛反発。下流国のエジプトが水不足になる。エジプトは、焦りを隠すことはできない。ナイル川の水資源をめぐる争いに、終わりは見えない。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・「ナイル取水『紛争』」『読売新聞』2021年7月7日
・ヴァンダナ・シヴァ『ウォーター・ウォーズ』(緑風出版、2003年)
・浦野起央『地政学と国際戦略』(三和書籍、2006年)
・サンドラ・ポステル『水不足が世界を脅かす』(家の光協会、2000年)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。