精神的空白とタブラ・ラサ

by 岡崎匡史 May 22nd, 2021

blog209.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

イギリス人の政治哲学者ジョン・ロック(John Locke)は、人間の自然状態を「タブラ・ラサ(tabula rasa)」、「白紙の状態」であると説いた。

ロックの思想は「人間は教育の力で必ず改善できる」「社会は政府の政策で向上する」という進歩主義の典型である。

大人が外部から確かな道を示すことによって子供を啓蒙し、新たに社会が向上していく可能性を見いだす。

日本人は12歳


マッカーサー元帥は、トルーマン大統領に解任され帰国した直後、米国議会の公聴会で日本人を驚かせる発言をする。


もしアングロ・サクソンが、科学、芸術、神学、文化などの分野において45歳だとすると、ドイツ人は我々同様十分成熟している。しかし、日本人は歴史の長さにも拘らず、まだまだ勉強中の状態だ。近代文明の尺度で計ると、我々が45歳であるのに対し、日本人は12歳の子供のようなものだ。勉強中は誰でもそうだが、彼らは新しい手本、新しい理念を身につけ易い。日本人には基本的な思想を植えつけることができる。事実、日本人は生まれたばかりのようなもので、新しい考え方に順応性を示すし、また、我々がどうにでも好きなように教育ができるのだ。

マッカーサーは、戦争に負けて精神的空白状態の日本人を「白紙の状態」である子供のように考えていた。

文明の進歩


占領が始まったばかりの1945(昭和20)年9月、GHQの民間情報教育局で働いていたハロルド・ヘンダーソン中佐も、マッカーサーと同じ認識をしている。

ヘンダーソン中佐は、「日本人はギリシア式論理の基礎を持たず従って論理的に考えない」「彼らはキリスト教的指導も民主主義的方法も持たないが、これらを吸収することは出来る」と日本人を見下し、自国を絶対化していた。

マッカーサーを含めて、多くのGHQ職員たちは、日本人の精神は空白であると見なしていた。日本人の精神的空白を埋めるものは何か。それが、キリスト教であった。

マッカーサーは、「日本人の精神生活は、戦争で空白となっているからキリスト教を日本人に布教するのは、今が絶好の機会である」と、その白紙にキリスト教の世界を描こうとした。

マッカーサーは日本国民のキリスト教への改宗こそが、文明的な進歩だと信じていた。


ー岡崎 匡史


PS. 以下の文献を参考にしました。
・Locke, John. 1997. An Essay Concerning Human Understanding. London: Penguin.
・西鋭夫『國破れてマッカーサー』(中央公論社、1998年)
・「日本人の再敎育」『朝日新聞』1945年9月26日
・「精神革命の成就へ」『朝日新聞』1946年12月14日

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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