中朝関係の未来

by 西 鋭夫 March 17th, 2021

極貧に喘ぐ人々


金王朝による核開発の裏で、苦しんでいる人々がいます。それは北朝鮮の一般の人々です。彼らがどれだけ厳しい生活を強いられているか。インターネットのない時代はほとんど分かりませんでしたが、彼らの生活の様子が少しずつ明るみになっています。

情報通信メディアの発達はまた、北朝鮮の人々自身が、外の世界の情報を得ることを可能にしました。もちろんそれが見つかれば銃殺でしょう。しかし、外の世界の情報を通して、自分たちの現状を知った若者たちは大きな不満を抱くことになる。反乱を起こす可能性もあると思います。


北朝鮮の裏切りか


国内に大きな問題を抱えた金正恩体制ですが、外交的にも重要な岐路に立たされています。

例えば北朝鮮は、近年における全ての核実験について、中国に事前通告してきました。しかし、今回の核実験についてはそれをしなかった。単に忘れていたわけではないでしょう。この裏には何があるのか。


中国と北朝鮮は、「唇歯の関係」などと言われるように緊密な関係を築いてきました。朝鮮戦争では一緒に戦っていますし、それ以降も、中国は北朝鮮を軍事的にも、経済的にも支援してきました。それが一夜にして、中朝関係が冷え込んでいるかのように思われた。

歴史的に見るとどうも腑に落ちない。私はこの北朝鮮の行動を、一つの戦略的行動だと考えています。それは、中朝両国とも良い形で存続するという、非常に優れた作戦です。


「事前通告なし」の真相


まず、中国にとって北朝鮮は絶対的に必要不可欠な存在です。誤解を恐れずに言えば、中国の「鉄砲玉」とでも言えるのではないかと思います。実際に物を打つので、危険な鉄砲玉です。この北朝鮮を失うと、中国は米軍と隣り合わせることになる。これは避けないといけない。

一方の北朝鮮にとっても、中国の後ろ盾や経済的支援は絶対的に必要です。そんな中国が、北朝鮮の核開発に手を貸していた、ということになれば、中国の国際的な信用はガタ落ちです。現在の中国には世界中からたくさんのお金が集まっていますが、信用を失えば、外国資本はすぐに中国を離れるでしょう。そうなると、中国の経済成長が危ぶまれる。大国化しつつある中国が減速することは、北朝鮮の利益にならないのです。


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ゆえに北朝鮮は、中国に頼らずに、勝手に核実験を行ったと見せかけようとしているのではないか。私はそう思います。中国の立場も維持しつつ、自分たちの立場も補強する。それが今回の事前通告なしの核実験だったのではないかと思うのです。



西鋭夫のフーヴァーレポート

2016年1月下旬号「北朝鮮の情勢」− 3




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。