中国のアキレス腱
南シナ海に展開している各国の軍事力を比較すると、13億人以上の人口を抱える中国は圧倒的です。しかし、航空機や戦艦、空母などを比較すると、アメリカ軍の性能が断トツでトップです。
冷静に考えれば中国がアメリカに対して事を構える、あるいは直接的な先制攻撃を仕掛けることはない。仮にそれを行ったら、一瞬で潰されてしまうでしょう。それほど、兵器や装備の性能に大きな違いがあります。
しかし、中国が意図的にではなく、不可抗力で戦争を始めざるを得ない状況が生じる可能性はある。それは、中国のアキレス腱、つまり共産党一党独裁が暴発したときです。この体制は、非常に危ないシステムです。どこかの国と中国が交戦状態に陥った際、国内では不平不満が爆発するでしょう。
内乱への恐れ
不平不満は、内乱に発展します。中国にはこの70年間、虐げられてきた民族がたくさんおります。漢民族だけではありません。中国の中流階級にも入ることが出来ない貧しい中国人は10億人ほどおります。この10億人が暴動を起こしたらどうなるでしょうか。手に負えないことは目に見えています。
これを知らない指導部ではない。ゆえに中国は、大掛かりな軍事行動は起こさないと私は考えています。地域戦や局地戦はあると思いますが、長引く戦いはしないでしょう。あるとすれば、近年では、中国北西部のイスラム教徒たちが住む地域かと思います。
自衛隊に対するイメージ
米中大戦が万が一、現実のものになった時、日本も動かざるを得ませんが、中国も東南アジア諸国も日本の自衛隊に対しては異常なほど敏感に反応します。なぜか。それは、旧日本軍の強さに由来します。
真珠湾攻撃を行った1941年12月8日、日本軍は同時に香港、フィリピン、シンガポールへの進軍を開始しました。一正面だけでなく、非常に難しい複数の作戦を同時に展開したわけです。しかもそれらは一時的にではあれ、全て成功した。真珠湾に世界を釘付けにする一方、欧米列強をアジアから追い出すわけです。
このことが当時の欧米人、アジア人に与えた影響は極めて大きい。何百年も虐げられてきたインドネシアでは、日本軍がオランダ軍を一瞬で駆逐しました。英国の歴史的海軍が守るシンガポールも、裏をかいた作戦で壊滅させました。マッカーサー率いるフィリピンも陥落しました。「日本は強い」というイメージはアジア全土に刷り込まれています。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2015年12月上旬号「南シナ海の情勢」− 6
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。