労働力としての移民
フランスは移民国家と言われています。現代におけるその起源は、第一次世界大戦後に遡ります。大戦の影響で、特に多くの若者たちを失ったヨーロッパでは深刻な労働力不足に陥っていました。フランスも例外ではなく、働き手となる人々が大幅に減少しました。そこでフランスは、移民を積極的に受け入れることを決定しました。
現在(2015年)、フランスにおける移民人口は、全国民の10%を超えており、イスラム系だけで500万人ほどいます。失業率は約10%です。テロが起きた後、オランド大統領は、戒厳令を出すとともに、国家の安全に深刻な脅威とみなされた外国人の国外退去を命じました。それは、フランス人の顔をしていない場合、つまり「中東の顔」をしていたらすぐに逮捕し、厳しく捜査する。その上で、解放か国外退去かを命じる、という内容でした。
失業率が示唆するもの
失業率が10%というのも無視できません。非常に高い数値です。これはおそらくフランス国籍をきちんと持っている人たちの数値ですから、国籍を取得していない移民たちは含まれていません。戒厳令や移民の強制的な締め出しの結果、生活がますます厳しくなった移民たちが暴動を起こす可能性もあるでしょう。
国籍を取得した移民たちも、中東系か、アフリカ系かなどの違いで失業率はそれぞれ異なります。アメリカの場合、例えば米国全体で10%といっても、人種別に見ていくと20%や30%といった数値が出てきます。
極度の貧しさの中で、気持ちを穏やかに保つことができる人はほとんどいません。職を探しても、見つからない移民たちの境遇は、新たな混乱の火種となるのではないか。フランス政府が移民を締め出そうとすればするほど、この傾向は強まっていくと思います。
独仏の確執
移民・難民問題は、ヨーロッパにおける昔からのライバル関係にも影響を与えるでしょう。独仏の喧嘩です。
フランス人から見れば、同時多発テロの真の原因はドイツにあると言えるのではないか。ドイツは実際、移民・難民に対して大きく門戸を開きました。国際社会は、そんなドイツの姿に拍手喝さいでした。
ドイツが積極的な難民受け入れ政策を実施しなければ、フランスに多くの難民が流れ込むことはなかった。フランスの中には現在、大勢のイスラム教徒がいますから、フランス国内はもとより、ヨーロッパ中のキリスト教たちと喧嘩を始めるかもしれません。
隣国フランスの惨状を見て、ドイツにはネオ・ナチと呼ばれる極右集団が生まれています。これまで多くの移民・難民を受け入れてきたドイツが、外国人たちを締め出すようになれば、ヨーロッパはさらに混乱に陥るでしょう。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2015年11月下旬号「パリ同時多発テロ」− 3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。