日銀の法王とマッカーサー元帥

by 岡崎匡史 December 26th, 2020

blog189.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

日本にキリスト教の大学建設のための資金集め運動が全米で始まる。

8つの教会、全米キリスト教会、北アメリカ海外宣教会議が財政援助を申し出た。彼らは、日本政府が大学建設の土地を寄付すると期待した。

マッカーサー元帥は国際基督教大学の設立を熱心に支持し、募金委員会の名誉会長になる。元帥は、国際基督教大学こそ「日本人にキリスト教義を通じて民主主義を徹底させる、偉大にして唯一の要素」であり、「世界が必要としている道徳再武装」の一貫であると捉えた。

マッカーサーは「キリスト教会は、過去五百年の歴史で世界中のどの場所よりどの時代よりも、日本で機会を得た」と国際基督教大学を絶賛した。

日銀の法王


日本政府は大学建設の土地を提供することを促されたが、政府が特定の大学を援助することはできない。キリスト教への加担になってしまう。

この問題を回避するために、日本銀行に助けを求める。1946(昭和21)年に第18代日本銀行総裁に就任して、8年以上も日本の金融を舵取りしたことで知られる一萬田尚登(いちまだ ひさと・1893〜1984)が後援会長となり、日本全国で募金運動を展開した。

仏教徒の一萬田は、日本が戦争に敗れた原因を、「日本人がキリスト教義と、それにもとづく民主主義、欧米の思潮を理解しなかった」ことであり、「キリスト教の精神は日本の民主主義を牽引する」と考えて協力したと語っている。

募金総額


日本での募金活動は、活発な展開を見せた。

日本の政財界からは有力な指導者達が協力して、府県別に東京は3500万円、大阪は2000万円、京都は600万円など、目標額を割り当てた。政財界だけでなく、小学生を含む多くの日本国民が大学建設のために寄付をした。

一方、米国での募金活動は、十分な募金が集まらない。1950(昭和25)年6月25日に朝鮮戦争が勃発したため、アメリカ国民の世論は、国際基督教大学の建設と日本の民主主義化の促進に対して興味を失い始め、彼らの関心は朝鮮戦争の行く末と共産主義の警戒へと移っていったからである。

最終的に、1951(昭和26)年の夏の時点で、募金総額は1億6000万円(当時のドルに換算すると35万4538ドル)の資金が集まり、95パーセントは非キリスト者からの寄付であった。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・"University Officials to Make Study," Bulletin International Christian University, Vol.1, No.1, May 1949.
・"Japan's Bell for Peace," Bulletin International Christian University, Vol.1, No.2, September 1949, Tokyo, Japan.
・Pamphlet, "The Japan International Christian University Foundation, Inc," 1949, DeForest Papers, Box 1, Hoover Institution Archives, Stanford University.
・"$10,000,000 Christian University for Japan Said to Be Backed by MacArthur, Hirohito," The New York Times, 17 December 1948.
・武田清子『未来をきり拓く大学』(国際基督教大学出版局、2000年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。