失墜したフォルクスワーゲンの権威

by 西 鋭夫 August 31st, 2020

ドイツ復興の代名詞


国民車としての「フォルクスワーゲン」は、働けば買えた時代です。人々は必死に働きました。その結果、ヒトラーの狙い通り、失業者は大幅に減少し、ドイツの再建が見事に実現しました。


失業者は一時、推定で600万人です。これが、数年のうちに20万人から30万人となった。ヒトラーの判断、そしてフォルクスワーゲンの魅力が、戦後の暗く低迷していたドイツの光になったのです。





ドイツ復興の代名詞となったこのフォルスクワーゲンは、今や世界一、二のブランドです。これほど長く、元の原型を残したまま流通している車もありません。性能の面でも、大変優れております。

その車に、不正ソフトが見つかった。これは誤りでなく、意図的です。何千万人というお客様を裏切ることとなった。


なぜ発覚したのか


極小のマイクロチップに仕組まれた不正は、そもそもなぜ発覚したのでしょう。


はじまりは、アメリカの田舎町にある小さな大学からです。そこに勤める工学部の先生が、フォルクスワーゲン社のディーゼルと排気ガスを調べていました。車を停め、エンジンを吹かすと、基準値を大きく下回る排ガスが確認できました。

ところが、排ガス測定の機材を付けて実際に走ってみるとどうでしょう。フォルクスワーゲン社が提示していたデータとは異なり、非常に悪い排ガスが出ていることがわかりました。その値は40倍も違っていたようです。にわかには信じがたいので、実験を繰り返しましたが、結果は同じでした。教授は記者会見に踏み切ります。


会長の辞任


これに驚いたのが、アメリカ連邦政府の環境保護局です。自分たちで調べてみると、やはりフォルクスワーゲン社が嘘をついていることがわかりました。小さな不正ソフトの存在も明らかになりました。


激怒した連邦政府、フォルクスワーゲンの会長に手紙を書きました。会長はすぐに辞任しました。フォルクスワーゲンは、これを10年以上にもわたり隠しながら、不正をおこなってきたわけです。

フォルクスワーゲンは第2次世界大戦を経験し、骨が折れるような敗戦を経験してもなお生き残った車です。しかし今度ばかりは、這い上がることが難しいのではないか。私は、最終的には回復できると考えてはいますが、その道のりは非常に厳しいと予想しています。


西鋭夫のフーヴァーレポート

201510月上旬号「フォルクスワーゲン」− 2




この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。