原爆論争
アメリカ人の目には、日本は「広島・長崎の灰」というカムフラージュを実にうまく使っていると映る。
すなわち、原爆の灰を日本人だけが被ったので、あたかも日本人だけが核兵器時代の、純粋無垢の「殉教者」になったような錯覚に陥り、聖人顔をして「核兵器反対」と大声でアメリカの良心に訴え、なぜアメリカが原爆を落としたかという原因をトンと忘れ去っている。
アメリカは全く良心の呵責を感じていない。それどころか、1995年4月、若い時、ヴェ卜ナム戦争に反対していたクリントン大統領でさえ、原爆投下は戦争に勝つために必要だったと言っている。
原爆展の中止
だから、1995年にスミソニアン国立博物館で予定されていた「原爆展」が、アメリカ国民の猛反対に遭ってキャンセルされた。広島・長崎での惨状を展示しようとしたからである。アメリカ国民(特に強力な在郷軍人たち)は「なぜ原爆を落とさなければならなくなったのか」に重点を置けと反対したのだ。
核兵器を全世界からなくそうとする高い理想は、もちろん捨てるべきではない。日本の非核三原則は事実、世界でもまれに見る勇気のある政策であった。でも、その現実離れの「まれ」さが命取りとなるのではないだろうか。
私は「日本よ、再軍備せよ」と言っているのではない。「核武装しろ」と言っているのでもない。言いたいことは、日本は日米安保条約によって事実上、多数の核兵器を持っている米国と軍事同盟国だということである。
弱民教育
なぜ日本の学校教育で、その安保の詳しい内容を教えないのか。日本の非核三原則はアメリカの核戦略政策(すなわち核のカサ)の保護を受けているからできたのであり、アメリカの核搭載艦の寄港まで拒否するというのは本末転倒もはなはだしい。日本は「ずるい」のである。
現在の日本は自衛隊を持ち、世界最強のアメリカと軍事条約を結んでいる。仮想敵国(中国と北朝鮮)が存在するのは当然だ。しかし、その仮想敵国が恐喝的な行為をすると、日本は恐れおののき、アメリカに助けを求める。
そんな日本をアメリカが尊敬するはずもないし、また、同等に扱ってくれることもない。俗にいう「バック・ボーン(根性)」が日本外交の中にないからである。
西鋭夫著『富国弱民ニッポン』
第4章 富国日本の現状−17
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。