大学院の洗礼

by 西 鋭夫 September 25th, 2017

初ゼミ


私は、当時アメリカで最も新しい学術研究方法である「コミュニケーション学」を勉強するために大学院に入った。この学問は、社会科学の化石化した「専門分野」のカベを取り去り自由な発想を促進させ、アメリカの大学教育に旋風を巻き起こした。

新学期は9月。最初のゼミでは、頭の中が真っ白になるというのではなく、色さえも存在しなかった。5、6人の院生と教授との討論が授業で、大声を出している者が勝っていた。私の地声も大きいのだが、教授や院生の英語がまったく分からない。


一晩90ページの宿題


単語力はかなりあったのだろう。教科書はゆっくりだと読めた。しかし、「ゆっくり」は役に立たない。宿題は、1クラス(週3回)で一晚に30ページを読むこと。


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3クラスを取っていると、一晩で90ページである。アメリカ人の院生は、1時間で30ページを読む。もっと速い者もいる。私は、30ページ読むのに3時間費やした。毎晩徹夜しても間に合わない。最初の1年間はあまり眠っていない。週末はぶっ倒れたように昏睡していた。


知識への扉が開くとき


最初の1年目を劣等生でもいいから通過すれば、2年目から楽しくなる。ある日、学生が早口で怒鳴り合っていた意味不明の外国語が80から90%聞き取れる。

暗号のような「雑音」が突然解読でき、知識への扉が一気に開く。

日本で丸暗記をしていた単語(音とアクセントと意味)が一斉に息づきだし、それまでの屈辱的な辛抱と必死の努力が報われたようでワクワクするほど嬉しい体験であった。


西鋭夫著『日米魂力戦』

第1章「遊学1964年」-16


この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。