バイニング夫人と皇室改革

家庭教師

ストッダードはアメリカに帰った後、熱心にこの女性家庭教師を探した。

愛国心を溢れさせた口調で、戦時国債をアメリカ国民にどしどし買わせた歌手のケート・スミスは、日本の天皇が皇太子の家庭教師を求めている、と全米に報じた。

天皇陛下に直接応募してきた女性も一人いた。

ストッダードは、二人の候補者を皇室に推挙した。ハワイ大学のミルドレッド・Ａ・チャップリン嬢と、ニューハンプシャー州のエリザベス・グレー・バイニング夫人（４４歳）である。

１９４６年８月８日、マッカーサーは、ストッダードに「皇室はバイニング――反復――バイニングに決定」と電報を打った。

バイニング夫人

ストッダードは、直ちにバイニングに招請を受諾するかどうかを聞いた。バイニングは即座に受諾し、学習院の教授として招聘される。

多くの作品を書いている作家で未亡人のバイニングは、１９４２年に書いた『アダム・ザ・ロード』で、有名なニューベリー賞を受賞した。

皇太子殿下の家庭教師は１９５０年まで務めた。その日本での体験を本に著わし、１９５２年、『ウィンドーズ・フォア・ザ・クラウン・プリンス』と題して出版した。

明仁親王（左）とバイニング夫人（右）

皇太子教育の真意

１９８１年、バージニア州ノーフォークにあるマッカーサー記念図書館で、日本占領のシンポジウムがあり、バイニング夫人も参加され、私と雑談をしていた時、皇太子の学力は上・中・下に分けると、中くらいだったと話された。

国務省で教育使節団担当のベントンは、

「私は皇太子の教育に強い関心を払っている。というのは、未来の天皇がアメリカ人家庭教師から受けた影響を将来、反映するのは確実であるからだ」

とストッダードに書き送った。

天皇、皇后両陛下は、バイニング夫人の教育が皇太子殿下におよぼした影響に共感を持たれたのであろう。