第九条の英知
教育使節団が最も強調したかったことは、「第九条の英知」。
これを生徒たちの頭に植え込むため、「彼等は市民生活の英雄たちについて教育を受けなければならない」と勧めた。
「武士道」「軍人」「軍神」などについて学ぶ必要もないと言うことだ。
純粋平和主義にとって、「日本史」と「地理」の二科目が邪魔になっていると見た使節団は、「記録された歴史と神話とが意識的に混同されており、地理は宗教的とさえいえるほど自己中心的なものであった」と批判した。
「歴史と地理の教科書編纂は、文部省の責任だけに任せてはいけない。有能な日本人学者たちによる審議会を設立して、日本歴史の書き直しのため信頼できる客観的な資料を広く集めるべきである」
と勧告している。
軽視された絶対的貧困
平和も倫理も大切だが、食糧の方がより重要かもしれない。
使節団は教師や生徒たちの惨めな生活状態を目撃し、余りの酷さに驚いた。しかし、どうしてよいのか見当もつかず、恥ずかしいほど幼稚な「勧告」を書く。
「経済は重要であるが、最高というわけではない」「幸福が当然とされているところなど何処にもない。富は幸福を保証するものでもなく、富がないからといって幸福になれないわけではない」
日本人教師や生徒にとって、当時、幸福とは、白米を満腹になるまで食べること。私にも、給食の時が一番幸福な時であった。
文相の抵抗
教育使節団が離日した10日後、国内の食糧事情を十分理解していた安倍文相は、全国の大学学長、高校校長と知事に指令を出し、
「誰の目にも明らかなように、政府の措置は日常生活から生じる諸問題に対処し得るものではない」ので、
「教師たちが何等かの自助の組織を持つことが望ましい」と言い、「過激に走らぬこと、また、特定の政党につけ込まれる隙を作らぬこと」を注意すべきであるが、
「このような教師の団体に対してあまり多くの規制を課さないようにして欲しい」と要請した(アメリカの生資料から、西が日本語に訳した)。
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。