アメリカの鏡

by 西 鋭夫 February 21st, 2016

良心の呵責


マッカーサーの雄弁は、彼の独裁政治のスタイルに見事に合った。

彼の態度は、日本国民の目に民主主義の実質を示すものとしては映らなかったが、日本保守派の困惑をよそに、国民は新憲法を歓迎した。そして、国民が民主主義を理解しはじめた時、「配給された民主主義」の矛盾が余りにも歴然となり、アメリカの政策立案者の良心を痛めた。


「アメリカの鏡・日本」


このアメリカ人の「良心の痛み」を正直に、かつ清々しく告白した本が1冊ある。

日本占領初期、GHQ・労働部で労働法立案に携わったヘレン・ミアーズ女史が帰国後、1948(昭和23)年に書いた Mirror for Americans : JAPAN(『アメリカの鏡・日本』伊藤延司訳、アイネックス、1995年)である。

戦前から、占領中にかけ、アメリカ政府およびマッカーサーのGHQが「極悪・残酷日本人」観を創り上げ、それがアメリカ国民の常識となっていたが、ミアーズはその日本人観をぶち壊した。


米国によるアジア侵攻


彼女によれば、ペリーの黒船から終戦までの日米関係は次のようなものだ。

アメリカ政府は、日本が朝鮮半島やアジア大陸へ侵略をしたから日米戦争になったとアメリカ国民と世界中に言い触らしているが、世界地図を見れば、どの国がアジアへ進出したか歴然としている。

我々アメリカが遠く離れたアジアへ乗り込んでいったのだ。日本は、アメリカ大陸へも、ヨーロッパ大陸へも進出していない。

アメリカは、アジアで日本が邪魔になったので、無理難題を投げつけ、日本を窮地へ追い込んだ。

日本は、自衛のために闘うより他に生きる道はなかったのだ。

アメリカは、勝つことの解っていた戦争に日本を引き摺り込み、日本を徹底的に破壊し、力尽き果てた日本兵と一般市民を殺しまくり、勝敗のついた後でも、原子爆弾を二発も使い、さらなる大量殺戮を実行した。

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占領下、GHQは狂気の軍国主義日本を民主平和国家にすると独善的な言葉を使っているが、すばらしい文化と長い歴史を持っている日本に武力でアメリカ様式を押しつけているだけだ。


葬られた「ミアーズ史観」


アメリカ人によるこの卓越した本は、マッカーサーによる発売禁止、翻訳禁止の烙印を押された。

占領下、この本が日本国民に読まれたら、彼の日本統治は崩壊していただろう。

ミアーズ女史が心奥深く感じた羞恥心にも似た良心の呵責こそ、アメリカが日本に残した民主主義の貴重な教訓であったといえよう。

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。