民主主義への冒涜

by 西 鋭夫 October 29th, 2015

陰謀


また、『フィラデルフィア・インクワイヤラー』紙のダントン・ウォーカー特派員は、同月17日付の紙面で、

「東京に駐留している米軍部隊の休暇は、連日にわたる共産主義者の暴動のためすべて取り消されている。先日の暴動によって、14人の米軍兵士が負傷して病院に運ばれた。米軍兵士は拳銃の使用を禁止されているので、暴徒を鎮圧するため催涙弾と警棒だけを使用している」

と報じた。

マッカーサーは同18日の陸軍省宛の電報で、

「この記事はウィンチェルの放送内容と同じであり、日本および極東におけるアメリカの地位に損害を与えようとする陰謀の疑いが濃い。報道機関に浸透を図るのは共産主義者の常套手段であり、彼等の目的はアメリカの国家機関に対するアメリカ国民の信頼を損なわせることにある。こうした状況に対応するため、陸軍省がより積極的な行動をとるべきだと考える」

と強い警告を発している。

静かなメーデー


5月2日付の日本の新聞は、メーデー集会を詳しく報じたが、「共産主義者の暴動」といったくだりは一行もなかった。暴動がなかったからだ。

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皮肉なことに、マッカーサーは翌3日、日本共産党は憲法上、問題のある存在かもしれない、との見解を明らかにした。

アメリカ兵士と日本共産主義者の最初の衝突は、同年5月30日に起きた。この衝突でアメリカ兵5名が軽い怪我をした。8人の「共産主義者」(内、立教大生が2人)が逮捕され、翌日から占領軍の軍事法廷で裁判になり、6月4日、全員に有罪の判決が出る(重労働10年から5年の刑)。


夢破れて、亀裂あり


厚木に上陸して、40日後の1945年10月11日、マッカーサーは

「日本国民は、精神を奴隷状態に置こうとする政府の思想、言論、信仰の弾圧や統制から自由でなければならない」

と断言し、日本国民が夢想もしなかった知的・政治的自由を与えた。

それ故、「言論の自由」について厳しい検閲を実行したのは、日本国民の能力を無視したことだけでなく、民主主義への冒涜でもあった。

マッカーサー自身の理想と、日本の現実の間に走った亀裂は、深かった。

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。