ほくそ笑む中国

by 西 鋭夫 October 6th, 2025

NATO

NATOはアメリカとソ連が冷戦を始めた時に、アメリカが中心になって創設した軍事同盟です。「どこか一国が攻撃されたら皆で助ける、逆にアメリカが攻撃されたらお前たちが助けに来い」という約束です。しかし実際のところ、まともに発動されたことはありません。

この同盟は結成から50年以上経っておりますが、その費用のほとんどをアメリカが負担してきました。トランプ政権の時に彼がドイツへ行って、「おまえたちは超お金持ちなのに、軍事費をほぼアメリカに任せておいて、何がNATOだ。いいかげんにしろ、お前たちも金を出せ」と言いました。そこでようやく少しずつ出すようになったのです。

では、そのNATOですが、一致団結して本当にプーチンと戦うのか。誰が最初の矢を放つのか。これは誰もやりたくないのです。だからこそプーチンを絶対に侮ってはいけない。日本もかつて「鬼畜米英」とバカにしましたが、あれが大きな間違いでした。敵を軽視して勝った国などありません。

 

西側諸国の反応

アメリカやEUが本気でウクライナを助けないこと、これはプーチンさんも理解しているところでしょう。ウクライナはロシアとEUの間にある緩衝地帯の役割を果たしてきました。EU諸国は、ウクライナ紛争がヨーロッパに飛び火することを恐れています。だから「できれば触りたくない、見たくない、応援したくもない」というのが本音です。「おまえ、早く負けろ」という空気すらある。

さらに大問題は、あの強いドイツです。ベンツやポルシェをつくる国ですが、その燃料の60~70%をロシアからの天然ガスに依存していました。それを止めてしまった。ドイツ自身は止めたくなかったのですが、アメリカのバイデン政権に「止めろ」とプレッシャーをかけられ、栓を閉めざるを得なかったのです。

皆さん、ドイツは寒いのです。私も行ったことがありますが、普通の寒さではありません。コンクリートが割れるのではないかと思うほどの厳しい寒さです。そうなるとドイツはどうするのか。しかもウクライナから小麦も来ない、家畜用のトウモロコシも来ない。ロシアからも小麦もトウモロコシも入らない。ヨーロッパはどうやって食べていくのか。アメリカから運んでもらうのか。

 

中国の思惑

こうした状況で一番喜んでいるのは中国です。いま中国は大洪水や大干ばつで大変な状況ですが、競争相手が減ったため、ヨーロッパが高い金で買っていた小麦やトウモロコシを安い価格で買えるようになりました。さらにもう1つ、中国に有利なのは、ヨーロッパが買っていたロシアの天然ガスや石油が安価で中国に入ってきていることです。アメリカ中心の経済封鎖が、結果として中国に利益をもたらしているのです。

「もっとやれ、もっとやれ」と思っているのが中国です。だから皆さん、現実にはもう中国とロシアは同盟を組んでいるのに等しい状況です。これは形だけではなく、実質的に「怖いものなし」という状態です。

思い出してください。プーチンさんが攻撃を始めたのはバイデン政権の時でした。しかし、その前の4年間はトランプ政権でしたよね。あの間は攻撃しなかったのです。プーチンさんから見れば、トランプというのは「俺が攻撃したら何をするのだろう」という怖さがあった。だから踏み切れなかった。

一方で、バイデンさんはどうか。正直に申し上げますと、世界中で完全に舐められております。プーチンさんにとって何の怖さもない。習近平さんから見ても同じで、ニコニコして安心していられる相手です。

 

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
ウクライナ分割案(2022年3月下旬号)-4




 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。