教育力の失墜

by 西 鋭夫 May 12th, 2025

科学の中の道徳

彼は後年、平和運動や核廃絶運動に没頭していくわけですが、それは非常に大きな反省の念からでした。「しまった。なぜこんなことをしたのだ」と苦しみ抜き、眠れぬ日が続くほど後悔したようです。そして「もう原爆はいらない」と決意し、平和活動に取り組むようになったのです。

科学には倫理や道徳は必要ないと思われがちですが、そういう発想が幼稚なのです。私たちの人生の中で道徳が問題にならない事は一つもありません。全て道徳が関係しております。私が平気でうそをつくような歴史家だったらどうでしょう。恐ろしいことを書いていますよ。

もし私がCIAから年間10億、20億円もらっていたら、真珠湾について何と書くでしょうか。太平洋戦争、大東亜戦争について何と書くでしょうか。そして出版社も私に買収され、最終的にはCIAに買収されます。そうするとその出版社はどうなりますか。新聞社、報道関係の会社にも同じことが当てはまります。

 

言葉遣い

道徳は言葉遣いにも出てきます。皆さん、一つ一つの言葉や表現に違いが出るのです。アメリカは「自由」を重視する国ですが、その自由をどう使うかについては非常に厳しい国です。私も子どもをアメリカと日本で育てましたけれど、日本では躾の面ではとても厳しくしました。私の父は箸の使い方に関しては特に厳しく、「箸をきちんと握れない。どういうことだ、こら」という感じでしたが、私も父のように厳しくしました。

アメリカではこれと同じことが言葉遣いに出てきます。良い家庭教育を受けていると、言葉が違うのです。私は言葉遣いでその人の教育レベル、この人の家庭教育の中身が分かります。それが関係ないと思っている人は米国社会では一発でわかります。言い換えれば、道徳心やマナーは良い教育、良い家庭教育を受けた証だと思われているのです。証と同時に、自分の生きざまになっていきます。

 

大学教育の今

10年ほど前、日本のある大学で教えていたら若い2~3年生の大学生が2人、私の部屋に来て「先生、お話がしたいです」と言うから「どうぞ」と招き入れました。そして話しだしたら敬語を使わないわけです。一発で分かります。

「あなたたち、敬語は使わないの」と聞いたら、「敬語を使わない方が西先生ともっと親しく、お友達になれる」という返答でした。「うわぁ、こんな教育を受けているのか。こいつらを社会に出たら苦しむだろうな」と思い、私は言ってあげたわけです。「私はおまえらとお友達になる気持ちはゼロですから、敬語が使えるようになったらまたおいで。とっとと出やがれ、このやろう」です。

教授と友達になることがなぜ良いのか。友達にならないと学べないのか。日本の大学教育の中で、不可解なことが起きております。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
日本の底力(2021年5月上旬号)-2



 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。