道徳の力

by 西 鋭夫 May 8th, 2025

日本再生のカギ

日本の競争力は年々、低下しております。2020年度の「世界競争力年鑑」によりますと、日本は34位です。競争力だけではなく、最近では学力も低下しております。日本はこのまま衰退するのでしょうか。

会員の皆さんからとても良い質問をいただきました。教育は「知育・徳育・体育」から成り立っているが、現状の日本はバランスが欠けているのではないか。歴史教育と道徳の関係、さらには道徳心を歴史教育で育むことについて、どのように考えるか、という内容です。

私たちはそれぞれ親に育てられ、兄弟や姉妹とけんかをしながらすくすくと育っていきました。すなわち、どの家にも、どの町にも、どの国にも歴史があるのです。日常生活ではこれらの歴史についてほとんど意識することはありません。何かの機会がないとそのような意識は出てこないのです。

 

心の大黒柱

しかし、私たちが何気なく過ごしている日常の中に「歴史」は深く根付いております。歴史とはいわば、人間社会や国家の大黒柱であり、普段は見えなくても確かにそこにあるものなのです。人間には家庭の歴史があり、町や国にもそれぞれの歴史があります。歴史とは、ただ年号や事件を覚えていくものなのではなく、私たちが今ここに生きている背景であり、心の拠り所なのです。

そうした歴史観が育まれると、目に見えない価値観や判断基準が形成されます。たとえば、過去に起きた悲劇や成功を知ることで、今ある選択に対する視野が広がり、自分の立ち位置が見えてくるのです。

 

道徳心

今、世間にはいろいろと「道徳」という言葉のついたものがありますが、これは1と1を足して2になるといった話ではありません。私たちは昔から「どの分野にも神様が宿る」と考えてきました。これは宗教的な神ではなく、私たちの中におられる神様でして、表面的にうそをついてもこの神様にはうそをつけないといった感じです。

例えば物理とか数学をやると道徳など必要ないと一般的には思われますが、そうではないのです。アメリカは原子爆弾を作り、それを広島と長崎に落としましたが、その中心となった人物がオッペンハイマーという天才でした。あの当時は50歳ぐらいでした。原爆が完成し、実験した時のことです。爆発を見た彼は「神を見た」と話しております。「しまった、こんなものに手を出すべきではなかった。造るべきではなかった」と後悔したのです。

しかし米国の動きを止めることはできませんでした。トルーマン大統領が広島と長崎に原爆を落とすわけです。オッペンハイマー博士はその原子力の研究をやめ、核廃絶に向けて取り組むこととなりました。


私たちが勉強するすべての事柄に「神宿る」なのです。歴史でうそをつく学者もおります。人を騙せても自分は騙しきれないでしょう。私が歴史研究をする時に、とにかく真実だけ、「これは日本にとって都合の悪い、日本は恥ずかしいことをした」というようなことがあっても、それが真実だったら私は書きます。そしてそれを世に出します。それをしない勉強、すなわち道徳の欠けた勉強などは勉強ではございません。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
日本の底力(2021年5月上旬号)-1




 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。