731部隊
2017年2月のフーヴァーレポートでは「生物科学兵器とテロ」をテーマとして、インフルエンザやコレラが引き起こす感染症の歴史を取り上げました。今回は日本陸軍による「731部隊」にフォーカスしたいと思います。日本陸軍が創設した731部隊は、中国のハルビン、当時の満洲国で細菌兵器を研究・開発していた部隊として知られております。
731部隊について取り上げることは、腫れものに触るかのようにタブー視されてきたように思います。とりわけ医学関係者にとっては敏感な話題でした。東京帝国大や京都帝国大という日本を代表する二つの大学のドクターたちが満州に行って実験をしていたからです。
解剖のしかたも今では考えられないものでした。皆さん、生体実験という名のいわゆる「生きたままの解剖」が行われていたのです。
生体実験
京大医学部を首席で卒業した石井四郎という先生がおられましたが、この人が中心となって自分の弟子やお友達を満州のハルピンに呼び、生体実験を行っておりました。実験台は、犯罪人や捕虜たちのほか、現地の朝鮮人や満州人、蒙古人などです。アメリカ兵も含まれていたようです。
どのような形で行ったかというと、ウィルスの中でも例えば赤痢菌やペスト菌などを用意して、食べ物に付着させ、それを食べさせたわけです。食べる方はもうお腹が空いているので大喜びで食べました。そして、その後、どうなっていくかをしっかりと調査していくわけです。 日本人は記録が大好きですから、克明に「〇日の〇時、〇日目の〇時にこうなった」というふうに記録しています。
目的
軍隊はこの研究に莫大な予算を出しています。それはもちろん戦争を有利に進めるための手段として位置付けていたからです。陸軍が想定していたのは、この菌を飛行機からばらまくと下にいる敵がどういう反応を示すかということでした。
第一次世界大戦では猛毒のガスがいろいろと出てきましたが、それは使えなくなりましたね。しかし、いわゆる「ばい菌」の方は国際条約がありません。日本陸軍はそこに目をつけたのです。731部隊はリーダーが石井先生でしたので「石井部隊」などとも呼ばれました。
日本医学界の頭脳が一斉に集められ、莫大な予算がつきました。食事も特別扱いです。海からはるか離れたハルビンにて海老フライは出てくるは、ステーキはあるは、天ぷらはあるは、白米もたくさんありました。もう完全に特別扱いです。「先生、良いものを早く作ってくれ」という期待が高まっておりました。良いものというのは、もちろん敵を一発で殺すことのできる兵器です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
731部隊とウィルス研究(2020年9月上旬号)-1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。