密告

by 西 鋭夫 October 10th, 2024

監視社会

3000万人規模の粛清など、いったいどうしてそんなことができるのでしょうか。もちろんこれは1、2年での話ではありません。スターリンがソ連の最高指導者としての地位にあった20〜30年間の話ですが、当時のソ連内にはいわゆる監視社会が成立しておりました。

この社会の中で極めて重要な役割を果たしたのが「密告」という行為です。密告者の会のようなものが作られ、誰が、いつ、どんなことを話しているかについての情報が共有されていったのです。そうした情報が今度は警察組織へと伝わり、取り締まりが始まっていくわけです。密告する方もリスクを背負うわけですが、密告者には報酬も与えられました。密告料とでもいうべきお金です。

皆さん、この社会がどれほど恐ろしいものか。日本でも最近ありました。「誰だれはマスクをしていない」という密告です。これは狂気です。それが職場や地域で広まっていくとどうなるでしょうか。そういう人を排除しようとしたり、その人から離れようとしたりします。そんな動きがどんどんと広がっていくのです。

 

AIスパイ

ソ連がかつて行っていたことをさらに強力な形で行っている国が現在の中国です。徹底的に監視し、情報を検閲しております。逆に言えば、これは共産党のお偉いさんたち、親分さんたちがいかに自分の国の国民を信用していないか、ということになります。

少しでも悪口を言うと、町中至るところに設置されたAIカメラがチェックし、地域の共産党員へと情報が伝達されて行きます。「物言えば唇寒し」という言葉がありますが、内容によっては「寒し」どころか「行方不明」です。中国とはそれを本気でやる国なのです。

そんな国が、日本の大手企業に対して「おいで」「おいで」のアピールをしております。私は「おまえらはアホか」と思ってしまうのですが、その口車に乗せられてしまう企業も少なくありません。中国でそんなに甘い汁を吸わせてもらえるのか。そんなわけはないと思います。皆さん、新幹線のことを思い出しましょう。どういう目に遭ったのですか。

 

体制の論理

中国の中にももちろん良い人たちもたくさんいらっしゃいます。現在の中国政府のやり方を疑問視する人たちも大勢います。しかし、中国社会も、その人々も日本人と比べれば随分としたたかです。政治という点では、日本や米国も相手にならないほどの伝統と強さを持っております。

中国とは、15億人近い人口を抱える国であり、その領土も広大です。その国を治めるためには、また人々を統治するためには、どれほどの権力が必要か。自分の地位やその体制に少しでも不利なことがあれば、排除するのは当たり前でしょう。

政権交代が起こるたびに、中国ではものすごいことが起きています。習近平さんの前の親分さんやその一族郎党は今、どこにいらっしゃるのでしょうか。中枢からはほとんどが外されているでしょう。汚職疑惑をかけられ、仕事もまともにしていないかもしれません。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
人脈と政治力(2020年6月下旬号)- 9


 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。