日米の差
実際の世の中は「才能」よりも「人脈」で動いております。人脈の方が大きな影響力を持っているのです。だからこそ恐ろしいのです。そして怖いのです。人脈には良い面もあります。しかし、おバカさんがお偉くなり、誤った指令を飛ばすことによって大きな被害をもたらすことが往々にしてあるのです。一家滅亡や会社の倒産といった世界です。国としても、取り返しのつかない過ちを犯すこともあります。
しかし、アメリカの場合はまた少し状況が違います。もちろん、人脈も重要ですが、アメリカは才能を評価する国なのです。一つの例は学問です。
日本の学閥は基本的には外の人間を絶対に中に入れません。学閥「外」の社会に対しては排他的なのです。しかしアメリカでは学閥外であっても、才能や実力がある人はきちんと評価して迎え入れます。これがアメリカの強さの秘密です。日本では才能があっても学閥のメンバーでなければ、取り立てられることはほとんどありません。
政権入り
フーヴァー研究所でフェローをやっている人たちはもうそれぞれの分野で世界的有名人ですが、その中の多くの人たちがホワイトハウスに勤めておりました。ブッシュ大統領など共和党政権の時です。こんなことは日本ではなかなか起こりえません。日本では基本的には政治家しか閣僚になれないでしょう。アメリカでは学者さんや軍人さんたちのトップがゴロゴロと政権入りするのです。
私はフーヴァー研究所にいて見ていますけど、ホワイトハウスで去年まで国家安全保障の長官をやっていたという人が、普通の人に戻る訳です。もちろん偉いですし、絶大なコネを持っておられますけれど、私たちと付き合う時は普通のお話をします。教授たちが話しているという感じです。
学問の世界と実務の世界のこの自由な行き来がアメリカ社会の強さの源泉なのでしょう。日本もアメリカも、選挙があって政治家が選ばれていくわけですが、力の分布は大きく異なっております。アメリカも基本的には自分の陣営でないものを蹴り落としますが、ずば抜けた才能を持つ人は別です。部外者であっても、なんとか自分たちの陣営に組み入れながらピラミッドを作っております。これによって、アメリカ社会の権力構造は、縦に長い、すなわち先の尖ったピラミッド型と言えるかもしれません。
談合社会
日本の場合、ピラミッドの上の方はだいぶ平坦ではないでしょうか。実力ももちろんあるのでしょうが、人脈重視で登ってきた方々が何人もいらっしゃいます。競争原理がほとんど働かない中で築かれてきたピラミッドですから、米国に比べて高くはありません。しかし、どっしりしていて崩れ難いものと言えるかもしれません。
そんな中では物事もなかなか決まりませんし、才能豊かな人が描いた政策案も実現できないでしょう。皆でじっくりと考え、角がたたないような形にしていくからです。皆が満足できるように最大公約数を基準に考えていくわけです。これは議論ではなく談合です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
人脈と政治力(2020年6月下旬号)- 2
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。