国家の消滅と移民

by 西 鋭夫 August 8th, 2024

琉球王国

沖縄にはなぜ移民が多いのか。その背景には琉球王国の消滅という悲劇があったことを忘れてはいけません。

一つの国家が消滅するということの意味を、現代に生きる多くの日本人は想像すら出来ないでしょう。しかし沖縄で暮らす人々にはその経験が脈々と語り継がれているように思われます。王国が消滅した琉球は沖縄となり、その後、 戦争に巻き込まれていきました。戦後になると、米国の一部となり、占領が続きます。日本の領土となったのは1970年代でした。

国家が消滅するということは、国籍を失うことでもあり、また文化的なルーツが断ち切られることでもあります。沖縄で暮らしてきた人々は、琉球王国が消滅してから1970年代に至るまで、自分たちのアイデンティティを強制的に奪われてきたと言っても過言ではないでしょう。

 

ハブちゃん

私がアメリカに行った時に、琉球大学から言語学の非常に優秀な若い先生(オイカワ先生)が来ておりました。私たちはもちろん、沖縄のことなんか全然知りませんので、あまり話もせずにいました。

しかし休暇に入る前、日本人で集まり、お米を炊いてご飯を一緒に食べる機会がありましたので、聞いてみました。私が「オイカワ先生、本当に沖縄ですか。琉球ですか」と言ったら「そうだ」とのこと。「沖縄にはハブがたくさんおりますね」「西くん、おまえは何を言っているのだ」「ハブがいるのでしょう?」「いるよ」「ハブというのはこんなに大きいのですか?」「大きいよ」というような会話をしました。

そして「先生、オイカワというのは名前が長いですから、先生は『ハブちゃん』でどうでしょうか」と言ったらみんなが大笑いして、ハブちゃんになってしまいました。

 

沖縄の悲劇

ハブちゃん先生からは色々な話を聞きました。そんな中で記憶に強く残っていることがあります。それは「沖縄は日本と組んで、良い時は1度もなかった」という一言です。

皆さん、今の沖縄を見てご覧なさい。日本の国防といって沖縄を差し出したのでしょう。捨て駒ですか。しかし沖縄は、米軍基地だけではないのです。米軍基地がやってくる以前から、本土に住む日本人から大きな差別を受けてきたのです。これを沖縄の人々はずっと忘れてはいませんよ。

文化も独特の発展を遂げてきました。しかしその価値を私たちはきちんと認めてきたのでしょうか。最近消滅した美しい琉球の建物「首里城」は京都や奈良などはもとより、日本中どこを探してもありません。あそこは最初から清国と、おそらくその前の明国、ひょっとしたら唐などともずっとお付き合いがあるのです。この豊かな歴史と、それによって形成されてきたアイデンティティとを、私たちはごっそりと奪ってしまったのです。沖縄の皆さんは「日本に乗っ取られた」と思っているのではないでしょうか。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
日系移民の悲劇(2020年5月上旬号)- 4

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

人気の投稿記事

ミャンマーと北朝鮮

アジア最後のフロンティア 北朝鮮の今後の動向を予測する上で、東南アジアにあるミャンマーは一つのポイントです。ミャンマーはアジア最…

by 西 鋭夫 November 8th, 2021

中朝関係の本当の姿

水面下でのつながり 中国が北朝鮮の核実験に対して、断固反対すると声明を出しました。しかし、中国の習近平政権と、北朝鮮の金正恩政権…

ミサイル / 中国 / 北朝鮮 / 核実験 / 米国

by 西 鋭夫 November 1st, 2021

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。