先入観
朝鮮半島の統一と聞くと、私たちは当たり前のように「韓国が北朝鮮を助ける」とか、「韓国が北朝鮮を吸収する」などと考えます。経済的に豊かな南が、北に対して手を差し伸べるという構図です。
これはもっともらしく聞こえる話ですが、実は偏った見方でもあります。すなわち、私たちは朝鮮半島を見るときに、いつも決まって韓国目線で見ているのです。北朝鮮目線で現状を捉えたり、韓国について考えたりすることはほとんどありません。
北朝鮮から見れば、「アメリカ兵を1人でも殺したら大変なことになる」と考えていますから、アメリカ軍が朝鮮半島から出て行ったら祝杯をあげるでしょう。北朝鮮は「韓国の軍隊ならば勝てる」と思っているでしょうから、中国の習近平さんに「何月までにこういうことをして、こういうことをしますから応援してくださいますか。韓国軍に勝つことが出来ます」と言います。そうすると習近平さんは横を向きながら「いいのではないか。私は聞いていないよ。だけれども、いいのではないか」と話すのではないかと思います。そうすると金さんは動きますよ。
米国はどう動くか
その可能性が出てきた時、アメリカ軍がすでに韓国から撤退していたらどうでしょう。韓国はもちろんアメリカに対して「帰ってきてくれ」と言うでしょう。しかしアメリカはおそらく帰ってきません。フィリピンがかつてアメリカ軍を追い出しましたが、その後、フィリピンが少し危なくなった時に「帰ってきてくれ」と言ったら、アメリカは「NO、私たちは帰りません」と言いました。そんな世界です。アメリカにとってフィリピンは、それほど重要ではないことが分かったのです。
日米韓の足並みが揃わない中、アメリカが単独で北朝鮮と平和条約を結ぶ可能性もあります。可能性というより、これはより現実的なオプションに見えます。それが本当に実現すれば、北東アジアの安全保障関係はガラッと変わるでしょう。朝鮮半島は現在、38度線で休戦状態です。戦争は終わっていません。1952年に「戦争は中止しましょう」と、終わりではなく中止したのです。
朝鮮戦争を戦った連合軍側の代表はアメリカでしたから、その大統領が金さんと何度かお話しして、「せめて平和条約を結ぼうよ」ということをしたら、朝鮮半島は統一どころか、南北分断が固定化することとなるでしょう。
以前お話ししましたが、米国にとっては、統一より、北朝鮮という緩衝地帯があった方が良いのです。これは、中国にとっても、ロシアにとっても同じです。ですから、米国による米朝平和条約はあり得ない選択肢ではなく、現実的なオプションなのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
朝鮮半島統一の幻想(2020年4月上旬号)- 6
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。