卍との違い
ナチスドイツのシンボルである鉤十字(ドイツ語ではハーケンクロイツ)は仏教でも用いられている卍(まんじ)と形がとてもよく似ております。日本で卍は寺院を示す記号にもなっておりますし、何よりも2000年以上の歴史を持つ仏教のシンボルです。
さて、鉤十字と卍ですが、形があまりにもよく似ているため、仏教文化に馴染みのない人々から見るとその違いがよく分からないかもしれません。実際、ヨーロッパやアメリカから来た私の友人たちは、「日本ではどうしてナチスのマークを使うのだ」と何度も言っておりました。やはり彼らからするとドキッとするのです。
きちんと説明すると分かってくれるのですが、今度はなぜナチスが鉤十字をシンボルとして用いたのか、という疑問がわきます。
優れていることの証
答えの一つは、このシンボルが優秀な民族性を示すものだから、ということになります。ヒトラーの頭の中では「俺たちアーリア人は優生民族であり、北からやって来た」という意識があります。ノルウェーやスウェーデン、デンマークなどです。そしてもう一つ、実はアジアにおける「北」にもヒトラーは興味を抱きます。それはチベットやネパールに住む人たちでした。
実際、ナチス御用の研究者たちがネパールへ行き、鉤十字のシンボルを確認しています。研究者たちが「これは何年ぐらい使っているのだ」と現地人に問うと、「もう何千年も昔からです」とのことでした。「それほど古く、優秀な民族が使っていたならば、これを我らのシンボルにしよう」、ということで、ヒトラーはその形を少し整え、シンボルに用いることにしました。
十字架
この鉤十字にはもう一つ秘密があります。ここにはキリスト教の十字架が入っております。曲がっているそれぞれの部分を取り除くと、十字架が見えてきます。
ヒトラーは若い頃、芸術家を目指しておりました。実際に自分でもさまざまな絵を描いています。しかしそれだけでは食べていけず、労働組合のようなものに入って、活動をしながら生活費を稼いでおりました。そんなある日、代役で行った演説で注目され、「若いけど、すごい演説をする奴がいる」と有名になっていきました。
それでどんどんと頭角を現して政界のトップにまで上り詰めて行きましたが、その一方であの鉤十字のデザイン性が頭から離れなかったのでしょう。ゆえに、チベット方面に研究者らを派遣し、実際に調査させ、自分たちのシンボルにすることを決定したのだと思います。
西鋭夫のフーヴァーレポート
ヒトラーと麻薬(2019年12月上旬号)-5
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。