ガス室
毎日、数千人のユダヤ人が収容所へと列車で運ばれてくるわけです。ものすごく汚い列車です。代表的な収容所はアウシュヴィッツでした。
ドイツ兵たちは「こいつらは虫けらだ」と思っていますから、「皆さん、早くその服を脱ぎなさい」と指示を出します。それで「シャワーを浴びたら、コーヒーが待っていますよ」と伝えました。それを証明するために囚人服を着たユダヤ人のおじさんやおばさん、お嬢ちゃん、僕ちゃんたちがコーヒーを飲んでいる様子を見せました。
連れてこられたユダヤ人たちはその様子をみて、当然「シャワーを浴びたらコーヒーが飲める」と考えたのだと思います。お行儀よく並び、何も知らないでガス室へと歩いて行きました。いつ暴動が起きてもおかしくない時です。しかし連れてこられたユダヤ人はコーヒーの香りを思い出し、ホッとしたのかもしれません。
ガス室内に入ってきたユダヤ人たちは、シャワーだと思って上を仰ぎます。そこから出てきたのは霧状になった毒ガスでした。一分でも吸ったら終わりの猛毒のガスです。日本でもオウム真理教の殺人者たちが同じ種類の毒ガスを使いました。
ガス室内は地獄絵の状況だったと思われます。ほぼ全てが命を失いました。ドイツ兵たちは、死んだ男や女たちの口を開けてペンチで金歯、銀歯を全部抜き取りました。彼らが着ていた背広や衣類も没収です。メガネなどももちろん没収です。服の裏にはダイヤや金貨を隠している人もいましたが、それらもしっかりとチェックしてナチスの軍資金となっていきました。
隠蔽
ユダヤ人はコーヒーと聞いて安心し、暴動も起こさずにガス室へと向かっていきましたが、コーヒーはそのためだけに用いられたのではありません。
当時、ヨーロッパではナチスドイツによるユダヤ人虐殺が噂になっておりましたので、国際連盟などが調査団を派遣して調査しているのです。しかしその実態を見抜くことは非常に難しいものでした。虐殺しているのではと問われると、ドイツ兵らは「とんでもない。彼らにコーヒーも出していますし、しっかり休ませていますよ」と答えるのです。
実際、国際連盟から派遣された調査団が様々な収容所で調査を行なっておりますが、ストライプの入った囚人服を着た囚人たちが、生き生きと暮らしている様子を見せられます。芝生の中にあるコーヒー・テーブルではユダヤ人たちが美味しそうにコーヒーを飲み、暮らしを楽しんでいるのです。
調査団にも「どうぞ、どうぞ」と言い、一緒にコーヒーを飲んだのでしょう。「ユダヤ虐殺は嘘ですよ」と、そんな会話もあったのではないかと思います。もちろんこれらは情報隠蔽のためのパフォーマンスであり、実態は異なります。しかし調査団たちはまんまと騙されてしまいました。
西鋭夫のフーヴァーレポート
ヒトラーと麻薬(2019年12月上旬号)-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。