激戦
アメリカのIT産業が世界のAI開発を牽引してきましたが、アメリカのすぐ後ろで、その動きをじっくり観察している国があります。中国です。中国は今、莫大な予算をAI産業につぎ込んでおります。
それを象徴するのが上海です。上海を拠点とするベンチャー企業が数多く誕生しております。その様子は、かつてのシリコンバレーに似た状況と言えるでしょう。
業種はIT産業です。そのどれもが優秀な企業です。立ち上げに関わっているのは米国で学んだ留学生たちで、英語はペラペラ、頭脳明晰の中国人たちが中心です。そんな人材がウジャウジャいる中で、上海では今、熾烈な競争が起きております。
米国在住の中国人
これは少し言い難い話ではあるのですが、米国在住の中国人たちは内心、戦々恐々としているところでしょう。真面目に信頼関係を築いてきた中国人もたくさんおります。しかし、中国人留学生らによる技術流出や技術盗用があまりにも酷いため、トランプさんもついこないだ中国人留学生を「盗人」「泥棒」呼ばわりしました。
ターゲットとなったのはアメリカの大学院に来ている工学部といったエンジニアの世界、とりわけコンピューター・サイエンスの世界で学ぶ中国人留学生です。米国社会の反応は、トランプさんに反対どころか賛同しているように思われます。「とうとう大統領まで言い出したか」という感じです。
米国には工学系で有名な大学がいくつもありますが、現在、中国人留学生はほとんど取らなくなりました。自分たちが10年、20年かかりやっとできそうなものを、勝手に盗んでいくからです。そして我が物顔でその技術を使い商売を始める。そんなことが多数、起きているのです。
政府高官らの懸念
フーヴァー研究所でも座談会などの小さなシンポジウムみたいなものが度々あるのですが、そこでも中国人による技術盗用は大きな関心を集めております。
シュルツ元国務長官は、現在相当なお年ですが、いまだにお元気です。そんな彼も座談会などで「中国の学生は取らない方がいい、泥棒が多い」とおっしゃっていました。東洋人は私だけでしたので「長官、私は日本からですけれど」と言ったら「日本人は大丈夫」と言われました。
「中国人学生は盗人だ」と、大統領や長官クラスが言っているのですよ。これは大ごとです。それは、どれだけ中国のITやAIを警戒しているかということの現れでもあると言えるでしょう。本気を出したらアメリカの技術も開発力も上です。しかし「盗む」という行為によって、それはいくらでもひっくり返る可能性があるのです。
西鋭夫のフーヴァーレポート
AI戦争と監視社会(2019年4月下旬号)-5
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。