監督
日本では誰がリーダーになっても同じだと思われています。30年間、何も変わっていないのですから、その気持ちは分からないでもありません。しかし、リーダーの人選はそれでもなお重要です。
例えば野球の監督です。誰がなっても同じではありません。私は阪神ファンですが、誰が監督になるかでガラッと変わるのです。弱いと思われていた広島も監督が変わって優勝しました。これと同じように、大学の総長を誰にするか、日本の総理大臣に誰をするか、この決定によって大学の形も、日本の形もガラッと変わります。
この点で、リーダー層の厚いアメリカはやはり大国なのだと思います。有能な人材が次から次に出てきます。ホワイトハウスではこの間、多くの閣僚が変わりましたけれど、優秀な人材がゴロゴロいるので全く問題ありません。
ディベート
良いリーダーを育てようと思ったら、グループで行うスポーツかディベートを教育にどんどんと取り入れるのが良いでしょう。日本との比較で、米国において盛んに行われているのはディベートです。小学校時代から大学まで、米国の若者たちはディベートでずっと鍛えられています。
小学校の時からみんなの前に立ってプレゼンをさせられます。小さな時からです。ですからプレゼンができないという発想もありません。お父さんお母さんも必死で手伝いします。プレゼン前日の夜は練習で大変です。「前に立ったらここから始めるのよ」と教えて、「はい」と返事をしても、子どもはその通りにいきません。でも、だからこそ面白いのです。
人の前でプレゼンをさせると、時々すらすらと話せる子がおります。しかも自分の言葉でです。「ああ、この子は別のブレーン(brain)をしている。別の回路でものが言えるのだ」とわかります。先生もそれをすぐに見抜き、その子をクラスのリーダーにしていくわけです。
司令塔なき教育
皆さんよくびっくりされるのですが、アメリカには日本のような文部科学省がありません。日本の政治は中央集権型です。霞ヶ関にある文科省が日本の教育制度とその中身を決めるのです。文科省が進める方向で学校運営をしていかないと補助金も出ません。それがどんなに魅力的な学校計画だとしてもです。
一方のアメリカは、大統領がトップにいてピラミッドのように見えますが、日本のような中央集権型ではありません。それぞれの州がとても大きな力を持っているのです。
教育についてもそうです。政府が牛耳って「この教科書でやりなさい」なんて言ったら、大問題になります。州ごとに決めていくのです。霞ヶ関が全てを決める教育は、平成、昭和を通り越して、明治時代の教育です。国定教科書を使っているのと同じことだと思います。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年3月下旬号「揺らぐ日本の人材育成」-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。