性をめぐる確執

by 西 鋭夫 March 27th, 2023

薩摩 vs. 長州

明治維新の推進力となった薩摩藩と長州藩ですが、その仲はあまり良くありませんでした。背景には何があったのか。その一つは、同性愛に対する考え方です。

長州では1600年頃から同性愛は認めない方針を打ち出しました。すなわち男同士の関係を「禁止」としたのです。その一方で薩摩では「兵児組(へこぐみ)」というものを特別に作り、20歳のお兄ちゃんが10歳の若い男の子の面倒を見る仕組みを作りました。生活様式やマナー、文字の読み書きだけではありません。その内実は、師弟関係を超えた男同士の関係も含まれておりました。明治時代に入っても、薩摩はその関係を否定しませんでした。

皆さんもよくご存知だと思いますが、明治維新の後に戊辰戦争がありまして、官軍が勝利するわけですが、その後の薩摩と長州は大喧嘩を繰り広げましたね。薩摩と長州、それから土佐が加わった喧嘩の原因は同性愛に関するものです。同性愛を認める薩摩と、それを嫌悪する長州が東京で激突したのです。犬猿の仲の背景には男同士の関係があったのです。

 

トランプ vs. 民主党系メディア

アメリカではトランプ大統領がLGBTに対して否定的です。しかしCNNに代表されるアメリカのマスコミは肯定的に捉えております。そして日本のマスコミがそれを追随し、LGBTに関する差別が大問題であるかのように報道しております。

ここには以前指摘したような宗教的背景もあるのでしょうが、現在アメリカで起きていることは「性」自体に関するものというより、反トランプ派による「トランプ叩き」とでもいえるような状況です。トランプ氏は相変わらずLGBTを否定しておりますが、それに反対するメディアにも明確なロジックや確たる政策アイディアがあるわけではありません。

先日、テレビにてトランスジェンダーの話が出ておりました。その人は100メートル走の選手で男性です。しかし彼は、「自分はトランスジェンダーだ」ということで、女性ホルモンの投与を行っているようでした。それで、その彼がどこかの州の大会にて女子100メートル走に出て優勝するという出来事がおきました。カメラ越しに見た彼の体は、見ただけですぐに男性と分かります。勝つのは当たり前でしょう。負けた女性アスリートがやり場のない表情をしておりました。こんなことが日常的に起きてしまったら、アメリカ社会はどうなってしまうのでしょうか。

 

消えたジェンダー論争

アメリカでは一昔前、「ジェンダー問題」や「ジェンダー学」といったものが大いに流行りました。あちこちの有名大学ではジェンダー学のクラスやゼミまでありました。しかし今はほとんど完璧に無くなっております。LGBTやジェンダーが「問題」とはならないこと、そして学問の対象にもなり難いということに、米国の皆さんは気づいたのです。

日本ではそれがよく分かっていない状況が続いております。キリスト教のようないわゆる哲学的なバックグランドがないのです。性に関してはもともと大らかです。神話の世界をご存知でしょう。天の岩戸の外では大麻を吸いながら、皆さんで仲良く楽しんでいるわけです。

そうした文化的素地があって今の日本があるのです。LGBTは日本でもあまり問題にならないまま、いつか消えていくのではないかと思います。あるとすれば、それは「性」に対する本質的な議論が深まった結果というより、政治的な理由によるものでしょう。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年2月下旬号「LGBTと武士道」-5



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。