お殿様の付き人
日本では平安時代が終わると、鎌倉幕府から徳川幕府まで武士の時代に入ります。時代劇などを見ると、主君のもとには、美男子の若武者が頻繁に登場しております。例えば、屋敷の大広間に座るお殿様の背後には、いつも2人ほど若い男の子が座っていますね。1人は刀を持ち、もう1人は何を持っているか知りませんが、必ず後ろに鎮座しておりました。彼らはいわばお殿様の男の愛人でした。
当時の日本は完全に男社会です。それは制度や政治の仕組みだけにとどまりません。男同士の関係はごく普通のものでした。それは何か穢らわしい存在ではなく、お殿様とその側近たちは一心同体であり、強い忠誠心で結ばれておりました。その典型は織田信長と森蘭丸です。森蘭丸は美男子だったようです。
好色物
江戸時代に入ってくると、歌舞伎や芸術の世界でも男同士の関係をテーマとした作品が登場してきます。代表的な作家としては井原西鶴が有名です。キリスト教下にある社会では決して許されないでしょう。男同士の愛情をテーマとした作品は一般庶民の中で広く浸透しておりました。出版のたびに拍手喝采のような状況だったのだと思います。
日本ではバイセクシャル、ホモセクシャルに関するものが社会的に受け入れられてきました。そこに罪悪感はありませんし、それらが「悪い」などとは思われておりません。これが何百年も前から続いているのです。ですから今さらキリスト教の神父が出てきて、「同性愛は罪人だ」と言っても、日本人にとっては何の罪か分からないのです。
男の嫉妬
男色の風習が庶民にまで広がっていたことで、男同士の嫉妬や喧嘩というもの多かったようです。歌舞伎役者で男前の役者がいたとすると、彼に大判小判をどんどんと出す人が5、6人はいました。その中で熾烈な戦いが繰り広げられていたのではないでしょうか。歌舞伎役者も、そこにお金を出す金持ちたちも本気だったと思います。
ですから、浮気などが発覚すると大問題になっておりました。男同士の喧嘩は、男女のものよりかなり激しいものです。口喧嘩というより、殴り合いの喧嘩です。
私は一度、アメリカでではありますが、それが起きた時の様子を目撃したことがあります。ゲイが二人で一緒に住んでいて、片方が浮気をしたということで、顔が腫れるほどボコボコに殴られておりました。私は見たくありませんでした。恐ろしい修羅場でした。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年2月下旬号「LGBTと武士道」-4
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。