LGBT
アメリカでは今、「性」をめぐっての大論争が起きています。ことの発端はトランプ大統領による発言です。彼は「トランスジェンダーの存在は認めない」、「生まれたときの性別は変更不可能である」と話しました。
LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーのそれぞれの頭文字から成る言葉で、性の多様性を語る上では代名詞のようになっておりますが、トランプ大統領はそもそもなぜ、LGBTに関する発言を行ったのでしょう。
その答えは、オバマ政権8年間の中で顕在化したある社会問題にあります。それはマイノリティの人権問題です。中でも、同性愛に対する関心が一気に噴出してきた印象です。
発言の真意
トランプ氏の発言の背景にはキリスト教があります。キリスト教では同性愛を認めておりません。すなわち、結婚は男と女が1対1でするものである、と聖書に書いてあるのです。何百年も何千年もそれを信じてきた人々は、この時代になってレズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、バイセクシャルが出てきたので、どうしていいか分からないのでしょう。その混乱の真っ只中にあるのが、世界最大規模のキリスト教国であるアメリカなのです。
民主党と共和党ではLGBTに対する考え方が異なります。ただし、その区別はオバマ大統領が出てくるまでは明確ではありませんでした。私は50年以上、米国で暮らしておりますが、ゲイの人たちはもちろんずっと昔からいらっしゃいました。彼らはその状況を隠そうとしていましたし、場合によっては地域社会そのものが見て見ぬふりをしておりました。
人権に関わる問題として表面化したのはオバマ政権になってからです。同性愛者の結婚は認められるのだろうか。子どもが欲しい場合はどうなるのだろうか。遺産の相続は可能なのだろうか。一般の男女が当たり前に享受する権利を、同性愛者にも認めるかどうかが争点になっております。
論争の行方
日本では同性愛に関する問題は政治の争点になりません。しかしアメリカでは国内を二分するような論争になっております。
この論争が今後、どのような方向に向かっていくかはまだ分かりません。ただ私が想像するに、LGBTに関わる問題は、しばらくはこのままの状態が続くのだと思います。問題はあると認識されているのだけども、あえて政策的に取り上げるのではなく「無視する」あるいは「特別に何か言うことはない」という状況が続くと思うのです。
レズビアンの人もゲイの人も結婚したい人が大勢いるのでしょうが、米国は今のところ、法的にも倫理的にもその要求に応える明確なガイドラインを持っておりません。それが作られるかどうかも分かりません。これが米国社会の現状です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年2月下旬号「LGBTと武士道」-1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。