IWCからの脱退
2018年末、日本は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明しました。内閣官房長官は「クジラに対する異なる意見や立場が共存する可能性がないこと」が明らかになったと述べ、「誠に残念である」との談話を発表しています。
私はかつてフーヴァーレポートで「捕鯨外交」を取り挙げましたが、その際、捕鯨問題は「鉄道のレールのように、いくら話し合っても終わりがない」「日本はIWCから脱退すべき」とお話ししました。今、それが現実となりました。
脱退は少し遅かったのではないかと思います。しかし、その決定自体は正しい。日本はIWCの中でこれまで延々といじめられてきました。政府も我慢ができなくなってしまったのかもしれません。
クジラはペットか
国際社会は日本の脱退を衝撃をもって受け止めたのではないでしょうか。そしてそれは、憎しみにも似たような感情を伴ったものだと思います。
世界的には非常に多くの人たちがクジラをペットのように見ております。ワンちゃんや猫ちゃんと同じだと考えているのです。そのため「ペットを殺して食べるとは何ごとぞ」と怒り心頭なのでしょう。
日本では異なります。日本人にとってクジラはペットではなく「資源」でした。食糧として、また日々の生活を支えるエネルギー源や道具として、クジラはとても大切に扱われておりました。かつての西洋諸国のように、油を取ったら終わりではないのです。日本人はクジラの全てを余すところなく使っておりました。
科学なき主張
日本は本来、食糧確保に必死にならないといけないわけです。格好などつけずに、自分の食べ物は自分で確保するという覚悟を持つべきだと思います。クジラは大切なたんぱく源であり、資源です。
日本のみならず、やがては世界的な食糧難の時代がやってくるでしょう。その時にクジラは必ず必要になります。
しかし、クジラに関する議論は食糧をめぐる安全保障論というより、善悪の問題にすり替わってしまいました。「クジラを獲るな」という主張の根拠は、「獲っているやつ」イコール「悪魔」だからです。クジラを獲るなという側が「善」で、獲る側が「悪」という構図ができているのです。
そんな問題ではないはずなのに、クジラ論争は善悪をめぐる問題になってしまいました。科学的根拠を持って大真面目に議論しようにも、相手は聞く耳を持たないのです。IWCからの脱退は正しい選択であると思います。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2019年2月上旬号「クジラと海洋資源争奪戦」-1
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。