経験
西先生は研究をどのように行なっているのですか、とよく聞かれます。
公文書や歴史的文書など、歴史の「証拠」を見つける作業についてはそこまで苦労しておりません。もう何十年とやってきたことですので、どこに何がどのような状態であるかなど、簡単にわかるわけです。
この段階に来るまでには相当な量の経験が必要です。若い学生を見ていると、探しもしないで「見つかりません」「わかりませんでした」と言っています。彼らにとって「探す」というのは単にネット上にないことなのでしょう。そんな探し方では知りたい情報にも、読みたい資料・本にもたどり着くことは出来ません。
アヘン一箱の重さ
そんな私でも苦労したことがあります。それはアヘンについて研究していたときです。もちろん最初からアヘンを研究しようと思ったわけではなく、最初のきっかけは明治維新でした。
明治維新のことを調べれば調べるほど、イギリスの影がチラチラと見えてくるわけです。それで、当時のイギリスが何をしていたのかについて具体的な調査を開始しました。
調査の中で浮かび上がってきたのが紅茶とアヘンです。紅茶については簡単に調べられますが、問題はアヘンでした。誰もまともに研究していない。
インドで採取したアヘンは、高速の船で中国の広東へ、すなわち今の広州へと運んでおりました。その様子について書かれた文献の中に、アヘンが一箱に60キロ入っていた、という記述がありました。
60キロの秘密
皆さん、グーグルなどで調べてみると、アヘン一箱が60キロであることが出てきますが、それを鵜呑みにしてはいけません。60キロなんて重さ、どうしてわかったのだろう。そしてそれはどんな箱に入れていたのか。この2点について興味を持ちました。
調査は丸1年半かかりました。その間、アヘンに関する論文や本を読み漁ったのは言うまでもありません。他の情報ももちろん得ながら読んでいますが、「60キロ」という言葉については特に意識を集中しておりました。
そんな中、一冊の本に出会いました。ジャーディン・マセソンという貿易会社の設立100周年を記念して出版された本です。それは、ジャーディンさんの妹とその旦那さんとの間に生まれた子が編集長となってまとめたものでした。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年11月上旬号「働き方改革と歴史」-6
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。