マルクス主義の亡霊
日本社会を家族のあり方から改革すべきである、と考えた人もいました。GHQのベアテ・シロタ・ゴードンとチャールズ・ケーディスです。
しかしこの前提として忘れてはいけないことは、当時の米政権内の高官らの多くがマルクス主義に染まっていたということです。内部にはスターリンのスパイも200名ほどおりました。ですので、GHQの担当官がというよりも、米政権内において共産主義的発想を持つ方々が大勢いらっしゃった、と考えた方が良いでしょう。
そんな彼らにとって、日本はいわばマルクス主義の新しい実験場でした。GHQが最初に行った占領政策は「平等」を基調とする国づくりです。階級も存在せず、お金持ちもいない。そんな社会を作ろうと思ったのです。
家長制度の崩壊
アメリカのような若い国が日本のような古い国の制度を完全に否定し、壊し始めました。代表的な例は家長制度です。日本では長男が後を継ぐことを善しとし、これを非常に長い間、続けてきました。100〜200年どころではありません。何百年、何千年の歴史的長さです。家長制度により、家はもとより、その地域も社会も秩序を保ってきたわけです。
そのやり方をアメリカは否定しました。財産も含め皆さんで平等に分けなさいと言ったのです。それを大真面目に行った結果として、日本の素晴らしい家の形、家族の形が崩れていきました。地域も社会も見事に破壊されてしまいました。
農地改革
土地に対してもそうです。何百年も続いてきた地主が没落しました。土地を管理してきた地主たちは問題視され、お前らが人々を搾取してきたのだろうと非難されました。そして、搾取してきた人々に土地をあげなさいと、そういうことになった。
私のお母さんは大地主でしたが、「鋭夫、お前は働かなくても、バカな次男として生活できたのにね」などと言われましたよ。「バカな次男」はいらないと思いますが、GHQはそれほど徹底的に土地を取り上げたのです。もらった方は棚からぼた餅でしょう。「おい、本当か?!」の世界だったと思います。
大地主が消えた社会、それはすなわちお金持ちがいなくなった社会です。全員が貧乏になりました。これは今でもほとんど変わっておりません。ちょっとした小金持ちはたくさんいらっしゃいますが、大富豪のような人たちは数えるほどしかいません。
GHQは改革と言いながら、日本をどんどんと細切れにして、小さな社会にしていったのです。その片棒を担いだのは、国会議員の先生方でした。
西鋭夫のフーヴァーレポート
2018年11月上旬号「働き方改革と歴史」-5
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。