不安がもたらすもの
サイバー攻撃はその用い方次第で非常に優れた武器となります。
サイバー攻撃を受けた際のシステム不全は誰もが予想することでしょう。しかし、それだけではないのです。サイバー攻撃によって生まれる「不安」そのものも大きな脅威です。
不安は簡単には収まりませんし、私たちの心を支配するものです。不安が極度に高まったとき、人々はどのような行動を取るのか。政情が不安定化したり、治安が乱れたりする可能性もあります。不安を煽りながら社会を混乱に陥れ、自分たちの目的を達成していく。それがまさにハッカーたちの狙いなのかもしれません。
安全・安心神話の崩壊
日本は世界有数の安全・安心な国です。日本のように、安心して暮らすことができるところは他にないでしょう。各国のスパイ同士が六本木のバーでばったり出会い、笑い転げる様な、そんな国です。
攻撃に対して全く無防備な我らの社会が、突然、何かのインフラ設備や生活に関わるライフラインがサイバーテロによって破壊されたり、制御不能となったりしたら、生活は一変するでしょう。電気が一日止まるだけでも大変なことになります。
電気が止まるとは、水が流れない、冷蔵庫が使えない、オール電化の住宅では玄関なども施錠できない、ことを意味します。交通の面で言えば、信号は止まるだろうし、高速道路の入口・出口もストップします。
抑止力が効かない世界
軍事力というと、私たちはすぐに「核兵器」を思い浮かべます。広島・長崎への原爆投下以降、核兵器が使用されたことはありません。しかしサイバー技術は、国家間の力のバランスを変えてしまうほど強力なツールです。
核兵器は誰かが使うと核兵器を持っている人たち全員が使い出します。その状況は理論的に「相互確証破壊」などと呼ばれます。例えば、敵対する2国間において、どちらか一方が核兵器を使えば、攻撃を受けた側はその報復として核兵器を使うだろう、という発想です。両者ともに破壊的な結末が確かな確率で予想できる状況下で、核の使用は合理的な戦略とは言えません。
ところがサイバー攻撃は、相手が見えず、国も厳密には特定し難い。言い方を変えると、いくら頑張って防御体制を作ろうとしても、抗い難い性質があるのです。核兵器に対しては、核兵器を持つことで抑止が効くでしょう。しかしサイバー攻撃に対して抑止することはほぼ不可能です。
西鋭夫のフーヴァーレポート
サイバー戦争(2018年3月下旬号)-3
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。