From: 岡崎 匡史
研究室より
1941(昭和16)年8月、「金属類回収令」(勅令第835号)が公布された。
日中戦争が泥沼化し、資源が不足しつつあるなかで、日本政府は国民に対して金属類の提供を求めた。真珠湾攻撃は、1941年12月8日(米国時間7日)に迫っている。
金属類回収令は、東條英機内閣で1943(昭和18)年7月に改正され、さらに強化されていった。小学校に設置されていた二宮尊徳像や寺院の梵鐘まで回収されていく。
長野県の上田市役所が作成した「 鉄銅鉛非常回収 !! 」は、お湯を沸かす「やかん」を二つ所持しており、銅製の「おろし金」を使っている家庭があるとまで注意を促す。
現代の言葉でいう「同調圧力」を加えて、「一つ残らず出し尽くした家庭が大部分なのに右の様な御家庭があってはなりません」とまで倫理に訴える。まるで非国民のような扱いである。
鉄銅鉛非常回収 !! 上田市役所
一、5月27日(自 午前9時 至 午後4時)
(...中略...)
二、買上場所 上田市役所
三、持寄方法
★ 壮年団が区毎に集めて持ち寄るか各人が個人個人で市役所の庭へ持ち寄ってください。
★ 物件には一つ一つ名札を貼り付けて下さい。
四、趣旨
皆さん既に充分御承知の通り、戦局は今や決戦段階にあります。我等の兄弟は今この瞬間にも南にも北に生命を堵して死闘を繰返しつつあります。私達は一人残らず今直ぐにでもとび出して行って憎い米鬼に思う存分拳固の一つも喰わしてやりたいと思わずには居られません。
このところに意義ある海軍記念日を迎えるに当たり、帝国海軍の辛労に対し心からなる感謝の誠を捧げ、我等の切々たるこの気持を残存金属物件の供出に披瀝し建艦資材の補給を計り戦力増強に貢献致しましょう。
五、注意
● 50人に1人か100人に1人か未だ日除用金仏が取外さないであります
● 表は取外しても裏の方に窓格子や手措かそのままになっている家庭が見受けられます
● 唐物の置物を床の間へ堂々と備え薬罐(湯わかし)を二つも揃え銅の十能銅のおろし金を使っている家庭があります
● 一つ残らず出し尽くした家庭が大部分なのに右の様な御家庭があってはなりません
六、鉛物件の回収
左に掲げた鉛製品は一つ残らずお出し下さい
鉛管及鉛板 文鎮及敷物押え類 その他鉛物件
買上価格 一貫匁 1円47銭
(指定施設、一般家庭、神社、寺院同時に実施)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。