聖書と翻訳

by 岡崎匡史 March 7th, 2020

blog150.jpgFrom: 岡崎 匡史
研究室より

「フーヴァー・ダイジェスト JAPAN」の第3号が、もうすぐ発刊されます。
今回も多くの関係者の手を煩わせ、大変な作業となりました。

難解な学術論文をいかに分かりやすく、噛みくだいて表現するか。それと同時に、翻訳の水準を保ち続けることが出来るのか。

「名訳」は存在しますが、「完璧な翻訳」はこの世の中には存在しません。なぜなら、英語と日本語は常に「1対1」で対応しているとは限らないからです。

今日は、聖書の「創世記」の和訳をいくつか紹介いたします。聖書には「神のことば」が記されているのですから、翻訳者たちは細心の注意を払って、心血を注いで取り組んだことでしょう。

創世記(英文)


In the beginning God created the heavens and the earth. Now the earth was formless and empty, darkness was over the surface of the deep, and the Spirit of God was hovering over the waters. And God said, "Let there be light," and there was light. God saw that the light was good, and he separated the light from the darkness. God called the light "day," and the darkness he called "night." And there was evening, and there was morning--the first day.

新改訳聖書(第3版・2003年)


初めに、神が天と地を創造した。地は茫漠(ぼうばく)として何もなかった。やみが大水の上にあり、神の霊が水の上を動いていた。神は仰せられた。「光があれ。」すると光があった。神は光を見て良しとされた。神は光とやみとを区別された。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕があり、朝があった。第一日。

口語訳聖書(1955年)


はじめに神は天と地とを創造された。地は形なく、むなしく、やみが淵のおもてにあり、神の霊が水のおもてをおおっていた。神は「光あれ」と言われた。すると光があった。神はその光を見て、良しとされた。神はその光とやみとを分けられた。神は光を昼と名づけ、やみを夜と名づけられた。夕となり、また朝となった。第一日目である。

文語訳聖書(1887年)


元始(はじめ)に神天地を創造(つくり)たまへり。地は定形(かたち)なく嚝空(むなし)くて黒暗淵(やみわだ)の面(おもて)にあり神の霊水(れいみず)の面を覆たりき。神光あれと言たまひければ光ありき。神光を善(よし)と観たはへり神光と暗を分ちたまへり。神光を昼と名け暗を夜となけたまへり夕あり朝ありき是首(これはじめ)の日なり。


聖書の和訳の移り変わりを観察するだけでも、私たちの「言語体系」が時代と共に変容していったことを感じることができるはずです。世代によって、日本語への美的感覚も異なります。さあ、あなたにとって、どの和訳が読み易かったのでしょうか?


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・いのちのことば社編『バイリンガル聖書』(いのちのことば社、2005年)
・村上春樹、柴田元幸『本当の翻訳の話をしよう』(スイッチ・パブリッシング、2019年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。