From:岡崎 匡史
研究室より
北極ときくと、冒険家の植村直己(1941〜1984)が思い浮かんでしまう。
子どもの頃に見た映画『植村直己物語』(1986年公開)の印象が強く残っているからだ。
植村直己は、1978年に犬ぞりで北極点単独行に初めて成功。しかし、アラスカのマッキンリー山の単独登頂に成功するものの、下山途中で消息を絶った。
北極海航路
アラスカ大学にある国際北極圏センター(International Arctic Research Center・IARC)は、北極海の氷河を長らく調査研究をしている。国際北極圏センターの観測によると、2008年9月9日、北極海の氷河が溶けたことでロシア側の「北東航路」と、カナダ側の「北西航路」が地球上に出現した。
「北極海航路」(Northern Sea Route・NSR)が現実味を増してきたのだ。
それとも、寒冷化に向かう地球の周期で夢物語で終わるのか。
「北極海航路」が実現すれば、海上距離輸送が大幅に短縮される。
東京からニューヨーク間の航路は、「太平洋~パナマ運河経由」で1万8500km。ところが、「北極海・北西航路」であれば1万4000km と短くなる。
欧州経緯の「インド洋~南アフリカ・喜望峰経由」は2万7800km。一方の「北極海・北東航路」なら約半分の1万3000km。
日本にとっても、北極海航路は魅力的な開拓先だ。日本は、マレー半島とスマトラ島の間を隔てるマラッカ海峡に出没する海賊に悩まされており、北極海航路が実現すれば多大な恩恵を受けることができる。
中国の北欧進出
2011年11月、「中国人投資家の土地買収拒否」という興味深い記事が新聞紙上に載った。
「アイスランド内務省は25日、中国人投資家による約300平方キロメートルの土地の買収提案を認めないと発表した。買収計画をめぐっては、北極圏の権益を狙う中国当局の意向が背景にあるとの見方が出ていた。
ロイター通信などによると、アイスランド内務省は土地取得にあたって同国内に拠点を置くよう求めた法令に抵触すると判断した。経済危機からの回復途上にある同国のグリムソン大統領は『投資を歓迎する』としていたが、内務省は『法令に例外は設けられない』と退けた。
中国人投資家はリゾート開発として、国土の0.3%に当たる北東部の広大な農地を880万ドル(約6億8000万円)で買収する計画だった」(『朝日新聞』2011年11月26日)
「リゾート開発」という名に隠れて、秘かにアイスランドの土地を買い漁り、地下に眠っている水を奪おうとしているのか。いや、それよりもさらに恐ろしい、中国政府の広大な戦略的な構想が背後に控えている。
2010年7月、アイスランド外相が訪中した際、中国は「北極海航路の共同調査開始」を持ちかけた。中国は、気候変動によって北極の氷が溶けていくことを見越して、北極海航路の確保を狙っているのだ。
日本近海から北方領土を横切り、北極海へ抜ける中国艦船がアイスランドを寄港地として利用する可能性は大いにある。
北極海争奪戦
北極海への出入り口となる「ベーリング海峡」にも注目が集まっている。
ベーリング海峡は、ユーラシア大陸の最北端のチュクチ半島(ロシア)とアラスカ半島(米国)の狭間にあり、長さはわずか96km 。かつて、人類はこのベーリング海峡を渡り、アメリカ大陸を目指した。
ソビエト連邦が崩壊し、「プーチン・メドヴェージェフ体制」で大国の復権を狙うロシアは、北極海を独り占めにしようとするのか。世界一の領土を有するロシアにとって、地球の気温が上昇することは好都合だ。ツンドラ地帯のシベリア開発を着手し、北極海への足がかりを有利に展開することができる。
北極海の海底には金や銀の鉱物資源をはじめ、石油・天然ガスが手付かずの状態で眠っている。北極海の氷が溶ければ溶けるほど、北極海で「資源争奪戦」が勃発する可能性が高い。ベーリング海峡の西側に構えるアメリカが、「分け前」を要求しないはずはない。
世界の覇権を虎視眈々と狙う中国は、北極海への影響力を強めようとする。
北極海をめぐって「米・露・中」が熱い。
ー岡崎匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・田中瑞乃「解かれし氷の封印~北極海の解氷減少がもたらす新航路、資源・エネルギー争奪戦~」『情報未来』33号、2008年。
・丸山康樹「地球温暖化と北極海の海氷減少」『日本船舶海洋工学会
誌』23号、2009年/
・「アイスランドに肩入れする中国の思惑」『Wedge Infinity』2010年12月13日
PPS. 一部の内容に記載ミスがありました。修正いたしました。
ご指摘して頂いた皆さま、どうもありがとうございます。
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。