腹心のレポート
マッカーサーの反論には、彼の部下が日本とアジア諸国の微妙な関係を克明に分析した長い報告書が添えてある。これには、マッカーサーと同じ考えが書いてあったのは当然であろう。
「第一次世界大戦後のドイツに許された限定的な再軍備が、無制限の武装を導いた苦い経験、平和時において軍事的決意を忘れてしまうアメリカの良く知られた悪い傾向、日本の軍備を撤廃せず、日本を永久的に支配することの非現実性、そしてアジア諸国が嫉みと、苦々しい思いで今の日本を見ていることは、日本とアジア諸国の間に友好的関係を確立する際、克服困難な障碍となるだろう」
マッカーサーの部下の分析は続いて、
「日本に経験を積んだ軍人が数多くいることは戦争時には武力となる。しかし、彼等の存在そのものを、実際に戦争が始まる時まで完全に中立的に維持しなければならない」。
愚策・再武装論
国務省は、マッカーサーと彼の部下の見解に同意しながらも、政策最高顧問の一人であった法学博士フィリップ・ジェサップに意見を求めた。
「私は、マッカーサー元帥の見解と全く同じ意見です」「いかなる形でも、日本再軍備は太平洋地域において重大な悪影響を齎すので、日本再武装は愚かな政策だと思います」とジェサップは警告し、
「ヨーロッパにおいても凄まじい大反対を巻き起こすでしょう。ヨーロッパ諸国は、ドイツの再武装をどれだけ恐れているか、我々はよく知っております」
と付け加えた。
フィリップ・ジェサップ
1897年、ニューヨーク市生まれのジェサップは、名門ハミルトン、コロンビア、エール3大学を卒業した弁護士であった。コロンビア大学教授、ハーバード大学教授を歴任し、国連安保理事会アメリカ次席代表になった。
ジョージ・ケナンと並ぶ英才と言われていた。
初代インド首相ネルー(左)と握手するジェサップ(右)
国務省は、アチソン長官の名で国防省に極秘文書を提出した。1949年11月16日付のその極秘文書、「日本軍の復活に関する国務省の見解」は、ジョン・ハワードが起草し、ジェサップが筆を入れたものだった。
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。