学部教育
若手が基礎研究に没頭出来ない日本の状態では、科学・技術の未来は暗いといえます。ノーベル賞を受賞した眞鍋先生は、「好奇心に基づいた研究」「あなたが得意な分野を選びなさい」と大学院生にアドバイスをしております。
しかし、日本では、博士号を取得したとしても、9割は安定した職に就くことが出来ない現実があります。博士課程に進学する学生は、年々減少しております。このままでは日本の研究水準が転がり落ちていくのではないか、と心配される方がおりますが、今まさに転がり落ちているところだと思った方がよい。
どの大学もあちこちに大学院を作って、博士号まで作ったりしていますが、勘違いしてはいけません。私の体験で、大学教育で一番大切なのは大学院ではなく学部です。学部がしっかりしていないと、大学へ行ったという気にもなりません。大学院は現在、かなりの数ができておりますが、行ったら行ったで良い就職先が確保されているかというとそうではありません。「俺は一流の学者になれるのか」と考える人もいますが、なれないです。

一流と二流の違い
私の体験ですが、アメリカと日本でずっと大学院生を見てきまして、「ああ、こいつは一流の学者になれるな」と思う人は、もう最初から違います。「何かこれをやりたい」という目的を持って、それから集中力を持っています。あちらに行き、こちらに行きというように、うろうろしていません。
大学院に入るには試験があるのですが、そんなものは基本的にはいりません。「学部4年生の間で、何か書いたものがありますか。それを持ってきなさい」ですよ。そうすると「ああ、この学生は文章が書ける。リサーチが出来る」と一発で分かります。
だからそういうものがなくて、日本は全部すぐ、はい入社試験、入学試験と、全部何か試験にします。あんなものでは何も分からないのです。眞鍋先生がノーベル賞、湯川秀樹先生がノーベル賞をもらう時に何か試験はあったのですか。
だから皆さん、日本は発想を変えるべきです。何でもかんでも「試験、試験、試験」と迫り、子どもたちには「入試、入試、入試」の山。おい、日本は正気に戻らないといけない。教育大好きな日本が、このままドーッと落ちていきます。
西鋭夫のフーヴァーレポート
ノーベル賞と日本の未来(2022年1月下旬号)-4
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

