研究者に企画書を書かせるな

by 西 鋭夫 December 11th, 2025

規制だらけ、企画書だらけ

皆さん、日本の教育は幼稚園から博士課程まで文科省に規制されています。ルールがたくさんあります。私はアメリカの大学院で何の規制もありませんでした。ただ「業績を出してね」と言われるだけです。業績というのは評判になる論文か、評判になる本ですよ。それが出来ない大学院生はどんどんといなくなっていきます。

しかし奨学金をもらっている時に「企画書を書け」、「申請書を書け」と言われたことは一度もありませんでした。眞鍋先生も同じことを仰っていますが、企画書など一度も書いたことがありません。

企画書を書くというのは皆さん、簡単なようですけれど、専門的な企画書ですから、何か込み入った論文を書いているという感じです。そこに何の意味もないです。ひょっとしたら3ヶ月や半年ほど、それに集中しなければなりません。私は日本の教育を解放しなければ、と思っています。


基礎研究の重要性

もう1つは「口ばかり出さないで金を出せ」と言いたい。基礎研究というのは皆さん、一般に言われる「役に立たない、何をやっているのだ」というものです。応用科学は日本で評価されて、いろいろ素晴らしいものが出来ていますが、それは、ここに1つ何かがあって、そこから発展させて10を作る、100を作るわけです。

しかし基礎研究というのは皆さん、何もないところ、すなわち0から最初の1を創るのです。さあ、これが大変です。1から10や100に増やすよりも、何もないところから1を創る。こちらの方がはるかに大変です。はるかに時間がかかります。天才が必要だし、金がかかるというやつです。

「高い山には広い裾野がある」という表現がありますが、高度な応用研究をするには、裾野にあたる「基礎研究」をしっかりと行わなければなりません。しかし現実は、産業に直結する研究が重視されるようになり、基礎研究はおろそかにされております。

それでもなお若い時の基礎研究が将来の業績のためには決定的に重要なのです。様々な分野のノーベル賞がありますが、多くの業績は大抵20歳から40歳ぐらいの間に行った研究をもとにしたものであり、それがベースとなった成果にノーベル賞が授与されております。眞鍋先生のように90歳で受賞ですが、これは彼が20代、30代、40代の時の研究でしょう。若い時に人の目につかなくとも、コツコツと優れた研究をやっていないとノーベル賞などもらえません。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
ノーベル賞と日本の未来(2022年1月下旬号)-2

 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。