惨殺の記憶

by 西 鋭夫 September 25th, 2025

癒えることのない傷

ロシア帝国とウクライナの歴史を見れば、長い間、常にどったんばったんの繰り返しです。国が大きくなる過程でも争いは続き、そこをモンゴルの征服者たちがワーッと通っていくわけです。モンゴル軍はキエフを攻め、降伏すれば殺さず、「若い者10万人を出せ。蒙古軍に入れ」と言っては騎馬軍に組み込み、西へ西へとヨーロッパを突き進んでいったのです。そこから延々と血の歴史が続いてきました。この歴史にナチス・ドイツの問題が重なってくるのです。

ロシアの人々にとって、ナチスから受けた恨みはいまも消えていません。老人も子どもも、男も女も、容赦なく皆殺しにされたのです。ユダヤ人であれば、特別なトラックに押し込まれ、列車で運ばれ、収容所ではガス室に送られました。

ウクライナにナチスが入ってきた時、ウクライナ人たちはナチス軍に志願しました。ソ連、そして今のロシアからすれば、これは絶対に許せない出来事です。同じことを自分がやられたら、許せるでしょうか。

 

ナチス・ドイツ

ナチスは「皆殺しにしてやる」と進軍しました。ところがウクライナ兵の多くがソ連を捨て、「ドイツ兵になりたい」と志願した。その数は10万、20万となり、やがて30万から50万規模へと拡大していきました。彼らの主要な任務の一つはユダヤ人を集め、ナチスに引き渡すことでした。

この歴史を知らないユダヤ人はおりません。例えばイスラエルです。イスラエルから見れば、ウクライナを「かわいそう」と思う感情など湧きませんよ。ゼレンスキーが「なぜイスラエルは民主主義を守る俺たちを応援しないのか」と怒っても、イスラエルから見ればご先祖を皆殺しにした相手なのです。恨みは骨髄に達しております。

 

プーチンは悪なのか?

ところが世界のマスコミは、プーチンは「悪魔」で、ゼレンスキーは「天使」のように描いております。彼はあそこに残って勇敢に戦っているのですが、それ以外にあまり選択肢はないように思われます。外へ出たらプーチンの暗殺者に殺されます。

皆さん、ウクライナとロシアの争いはまだまだ小競り合いのレベルです。ロシアが本気になったら、戦争はあんなスケールではないでしょう。これは人種問題、さらには過去のいがみ合いに関わる争いです。ウクライナは一時ロシア帝国、そしてソ連の一部でした。同じ仲間たちだったはずです。そんな中でナチス・ドイツへ加担するものたちがいた。そのために大勢が命を失ったということなのです。

そこを覚えておかないといけない。今のマスコミを見ていると、プーチンは悪者、ゼレンスキーは天使ではないですか。ふざけるなと思います。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
ウクライナ分割案(2022年3月下旬号)-2



 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

人気の投稿記事

ミャンマーと北朝鮮

アジア最後のフロンティア 北朝鮮の今後の動向を予測する上で、東南アジアにあるミャンマーは一つのポイントです。ミャンマーはアジア最…

by 西 鋭夫 November 8th, 2021

中朝関係の本当の姿

水面下でのつながり 中国が北朝鮮の核実験に対して、断固反対すると声明を出しました。しかし、中国の習近平政権と、北朝鮮の金正恩政権…

ミサイル / 中国 / 北朝鮮 / 核実験 / 米国

by 西 鋭夫 November 1st, 2021

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。