塩素消毒

by 西 鋭夫 May 29th, 2025

自然の豊かさ

私たちの命の源、それは「水」です。フーヴァーレポートではこれまで「水戦争」や水にかかわる「エネルギー戦略」など、生活の根幹にかかわる「水」について詳しく取り上げてきました。中国による水資源の獲得を目的とした戦略的土地買収についても取り上げましたが、今日は「水道と国際政治」というテーマでお話ししたいと思います。

私は1941年生まれですので、戦前・戦後の水道事情、飲み水に関する記憶を持つ「生き証人」です。私が子どもの頃、水道はありませんでした。大阪にはあったのでしょうが、私はまったく記憶にありません。記憶にあるのは疎開先の岡山県の備中高梁(びっちゅたかはし)というところです。そこには高梁川という美しい川が流れていました。当時、日本で一番大きい鮎が獲れると有名で、その大きさは今の鱒ぐらいありました。本当の話です。

 

その町に水道はなく、家には井戸がありました。しかし、飲んだのは井戸水だけではありません。私たちは夏になると川へ泳ぎに行き、そこで川の水を飲んでいました。それで病気になったことは一度もありませんでした。水道の記憶はありませんが、本当の真水、川の水を飲んでいたのです。私も含め、子どもたちは全員、普通に飲んでいました。

 

塩素

ペットボトルで売られている水は、できるだけ真水に近づけようとしてつくられており、水道水とは別物です。水道水からは何か、プーンとした臭いがしませんか。あれが塩素の臭いです。ペットボトルの水は、塩素をできるだけ少なくした水ですが、塩素が入っていることに違いはありません。政府の規則で「水は消毒しなければならない」となっているからです。

しかし、私が思うに日本には消毒しなくてもよい安全な水がたくさんあるのです。日本には山が多く、雨もよく降りますので、清らかな水が豊富にあるのです。その水に消毒が必要になったのは歴史的に見てつい最近のことでした。

きっかけは日清・日露戦争です。皆さん、日本軍はその時、中国やロシアに向かったわけですが、そこから帰国する際にコレラや赤痢といった伝染病を持ち帰ってしまったのです。それらの病原菌が水脈に入り、川や井戸の水を通じて全国に広まりました。自然な水に慣れていた日本人たちの多くがこの病原菌でやられました。多くの人々が亡くなりました。

これを見た政府が水道システムを整備し、流す水は「殺菌せよ」ということになったのです。その殺菌に使われたのが塩素でした。人が多く集まる大都市において急ピッチで水道網の整備が始まりました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
水道と国際政治(2021年11月下旬号)-1


 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。