国を裏切らないインテリジェンス

by 西 鋭夫 May 22nd, 2025

CIAからの誘い

大概の人は「セックス」「マネー」「ステータス」で落ちます。いかに自分が清廉潔白な人物で大真面目であろうと、このうちのどれかでガタッと足をすくわれます。私はこれをCIAから教えてもらいました。

私がCIAから電話を受けたのは博士号を取った後でした。今でも鮮明に覚えていますよ。博士号の証書をもらった次の日の朝、8時半です。私は夜が遅いので、普通は8時半には起きていないのです。しかし、その日はたまたま起きていて、スタバのエスプレッソを飲んでいました。話をしないかと言われたので、会いました。

その方は50歳ぐらいのおじさんCIAでしたが、「トシオ、人間には価格が額に書いてあるのだ」と教えてくれました。そこで「どんな価格ですか」と聞いたら「セックス、マネー、ステータス」と言っていました。それで「僕は何と書いてあるのですか」と聞くと、「おまえの額にはまだ書かれていないから困っているのだ」と話しておりました。

 

説得の末に

それでいろいろと説得されて3時間ぐらい経ちました。私の気持ちは動いておりまして、もう入ろうと決めておりました。皆さん、私がCIAのメンバーになることと、今、日本の企業や政治家の人でスパイになって何か活動することは、レベルが違います。私がスパイをするわけではなく、私がそのスパイたちを使うわけです。CIAと言っていますけれど、「実際には人に会わない。間にいるやつを動かすのだ」とその方は言っていました。それで私は「OK」と言いました。入りたかったのです。

それで分厚い願書をブリーフケースから出してドンと出して、生まれた住所やシアトルで大学に行った時の住所など「こんなの覚えているか」と思うような情報もありましたが、「ああ、大丈夫だと」と言われまして、最後にサインをする寸前のところまで来ました。

 

抵抗

そうするとその方が急に、「トシオ、ちょっと待て。おまえ、アメリカの市民だろうな」と話すのです。私のパスポートは赤ですから日本人です。だから「いや、違うよ」と言ったら、「それはダメだ。ここはCIAだぞ。アメリカ政府のスーパー・スパイ・エージェントだぞ。おまえにはアメリカ市民になってほしい」と言ってきました。「市民になるのには5年かかるではないか」と返答すると、「おまえは明日なれる」ということでした。

「日本人をやめろ」と言われていることに気づきました。最後の最後までわからないものです。CIAに入りたいと思っておりましたが、日本人をやめろと言われてはできません。そもそも日本人としてやってきた男が、途端にそれをやめてアメリカ人になり、日本や朝鮮半島、中国、ソ連に対してのスパイ活動に加わるのです。

それで私は「今ここで日本の国籍を捨ててアメリカの国籍を取ると、たくさんお金がもらえて好き勝手に大冒険をやらせてもらえる。でも、そんなことをする男を、それが出来るような男を雇って本当に良いのでしょうか。今度は、もしソ連や中国がCIAより良い条件で俺を雇いたいとなると、今度はアメリカの国籍を捨てて中国のスパイ・ネットワークに入ろうと思うかもしれません。だから今ここで、日本国籍を捨ててアメリカ市民になるような男を雇ってはいけない」と言ったのです。

このCIA局員は「世界中の民はアメリカの市民になりたい」と錯覚しておりますから、私みたいな大学を出たばかりの日本人の男がこんなことを言い出すとは思ってもいなかったのでしょう。「こんな話は聞いたことがない」とうっすらと涙を浮かべておりました。それで余計に私を欲しくなったのです。その後スタンフォードのフーヴァーに行くのですが、時々電話がかかってきて「トシオ、心は変わったか」「まだです」という会話をしていました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
日本の底力(2021年5月上旬号)-5



 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。