なぜ下駄を履かなくなったのか

by 西 鋭夫 March 20th, 2025

下駄の効用

私は今年(2021年)で80歳を迎えましたが、足の筋肉は全く衰えておりません。私より10歳上のある有名な先生が近所に住んでおられましたが、その先生が「西君、おまえの健康はその下駄だ」と仰いました。「先生、なぜ下駄は健康に良いのですか?」と聞いたら、私は知りませんでしたけれど、ちょうど鼻緒を挟む所、ここに血圧を抑えるツボがあるらしいのです。私はカッカとしておりますけれど、ここにツボがあって、歩くたびそこを刺激するので血圧が高くならないようでした。それで「おまえは長生きするぞ」などと言われていました。

私のように下駄履きに慣れてしまうと、普通の靴が窮屈に思えてきます。ぐっと足を締め付けるのです。下駄はむしろ開きまして、足の指を全部使いますから血行がよくなります。

私は冬でも下駄です。それを心配して、時々きれいなお嬢様たちから「西先生、お寒くないですか」と聞かれますが、寒くありません。負け惜しみではないです。私は寒かったら絶対に下駄を履きません。寒いのはこの辺が寒くなるだけで、足が寒いとか指先が寒いというのは、長い間、感じていません。それだけ血の巡りが良いということでしょう。

 

文明開花

下駄は健康に良いだけではなく、古くから日本人の生活を支えてきました。日本語の諺にも「下駄」という言葉がたくさん使われております。「下駄を預ける」「下駄を履かせる」「下駄を履くまで分からない」などです。それほど日常生活に浸透していた下駄ですが、私たちはなぜ、どうして下駄を履かなくなったのでしょうか。

答えの一つは、私が大好きでかつ大嫌いなあの明治維新にあります。欧米から人がわさっと入ってきましたが、彼らのほとんどが洋服やスーツを着ておりまして、それに似合った靴やブーツを履いておりました。そして彼らはまさに「文明」を授けるつもりで来ておりますから、和服や下駄を履いているのは古い、近代的ではないと考えました。

政府もそこに飛びつきました。文明開花と呼ばれる現象が始まります。下駄は文明が遅れている国のもので、文明が進んでいる国の人間は靴を履くものだと、そんな考え方が広まっていきました。日本はまた巨大な軍隊を作りますけれど、訓練でも実践でも下駄や草履では危ないということで、軍靴(ぐんか)を履くようになりました。武器の主役はもちろん刀ではなく銃でした。

こうして侍たちの文化の一部であった和装も下駄も消えていきました。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
下駄と日本人(2021年10月下旬号)-2



 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。