偽りの葬式
日本軍の戦争犯罪者たちは極東国際軍事裁判で裁かれておりますが、731部隊はどうだったのでしょうか。A級戦犯として起訴された者たちの中に石井四郎の名前はありませんでした。B級やC級戦犯の中にいたかというとそこにもない。
一体何が起きていたのか。日本軍の細菌兵器開発や生体実験を重く見ていなかったわけではありません。当時のアメリカは「生体実験」と聞いただけで引き付けを起こします。ですから徹底的に調べております。そしてすぐに731部隊のことも、石井四郎のことも突き止めました。
しかし当の本人が全く見つからないのです。石井は雲隠れとなりました。A級戦犯になってしまうのが怖いからです。戦犯にならないよう徹底的に隠れました。しまいには自分の死をねつ造し、「病死」したとの証明書を作りました。
取引
ところが「死んだ」後が問題でした。諸説ありますが、彼は様々な場所で働いていたと言われております。一つはアメリカ兵のための売春宿を経営していたとか、またあるところでは病院を作り医師として生きたとか、色々な説があります。
しかし最終的には見つかってしまいました。731部隊の生き残りがたくさんいらっしゃるでしょう。芋蔓式に色々な証言が出てきて、生きていることがわかり捕まったのです。
捕まった石井ですが、絞首刑になるかというとそうはなりませんでした。アメリカは「おまえは絞首刑になりたいか? それとも持っている物を全部出すか?」と脅しました。アメリカでは生体実験など出来ませんでしたので、その研究成果がどうしても欲しかったのです。石井はそれで持っているものを全部出し、全てを語ったのでしょう。司法取引をして無罪放免となりました。
731部隊の生き残り
今、お話ししたようなことは、当時の日本人はほとんど知らないでしょう。ましてや東大や京大のお医者さんたちがそんなことをするはずがないと思っております。実際、731部隊のことは隠され、タブー視されていくこととなりました。
東大や京大の研究者、お医者さんたちで誰か監獄に入った人はいますか。「殺人鬼」などと言われたことはありますか。日本は甘い世界です。東大、京大というと日本はものすごく甘いのです。皆さんそれぞれ元の職場に戻って教授になられて、素晴らしい論文を書かれて博士となっていきました。
そのうちの一人はハルビンでのことを「サルに対する実験」として論文に書いております。 「人間で実験しました」などとはまず言えないでしょう。色々な病原体をサルに与えてどうなったのか、克明に記録する論文を書き上げました。その彼は偉い先生になられたと聞いています。
西鋭夫のフーヴァーレポート
731部隊とウィルス研究(2020年9月上旬号)-4
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。