巣鴨プリズン

by 岡崎匡史 December 1st, 2024



From: 岡崎 匡史

研究室より

1948(昭和23)年12月23日(木曜日)午前零時1分、巣鴨プリズンの中庭に作られた13階段の絞首台を、固唾をのんで見守っていた人物たちがいた。

死刑の執行は非公開。記者やカメラマンの立ち入りは許されない。

いかなる者も、巣鴨プリズンの戒護区域内においてカメラの使用が禁ぜられ、厳重な監視態勢が敷かれていた。

立会人


連合国軍からの立会人は、対日理事会議長の米国人ウィリアム・J・シーボルト政治顧問、ソ連のクズマ・デレビヤンコ中将、中華民国の商震、イギリス連邦代表のパトリック・ショー。

彼らは、22日の夜10時30分に指定された集合地点に集まり、自動車に乗って巣鴨プリズンまで極秘裏に移動した。

巣鴨プリズンに到着した立会人たちは、午後11時50分に「電気が明々と輝き、暖房のきいた本館から、暗黒と寒気に包まれた戸外に出て、歩いて5分ほどで行ける死刑執行室へ向った。重い足を運びながら、誰も一語も話すものはいなかった…暗闇のなかを、一列縦隊になって進んだ」。

死刑執行者と立会人は、適切な厳粛さを持って見守られることが事前に伝えられていた。示威的態度をとってはならず、不適切な行為は許されない。

クリスマスプレゼント


12月23日は、上皇陛下(当時・皇太子)のお誕生日である。

マッカーサーは、一生忘れられない悪意に満ちたプレゼントを皇太子殿下に贈った。誕生日がくる度に、A級戦犯と戦争責任が脳裏をよぎる。

勝者の連合国にとって、処刑執行は米政府と元帥から皇室へのクリスマスプレゼント。

処刑の翌々日、12月25日(土曜日)、天皇皇后両陛下は、宮内省を通じてマッカーサー夫妻に彫刻家・山崎朝雲(やまざき ちょううん・1867~1954年・高村光雲の高弟)の作品である木彫双狗(木彫りの二匹の子犬)、子息のアーサーにはアルバムを贈られた。


ー岡崎 匡史

PS. 以下の文献を参考にしました。
・ウィリアム・シーボルト『日本占領外交の回想』(朝日新聞社・1966年)
・永田憲史「A級戦犯の死刑執行手順書」『関西大學法學論集』63巻5号、2014年
・宮内庁『昭和天皇実録 第十』(東京書籍、2017年)

この記事の著者

岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。

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岡崎匡史

岡崎匡史

日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。