映画の中の中国
中国はハリウッドに「お金」を出しているだけではありません。「口」も出しております。中国で放映されることを前提として、ああしろ、こうしろと注文をつけているのです。私の大好きな映画の1つにトム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』がありますが、最近のシリーズでは中国がよく出てきます。美しい中国人も登場しております。
皆さん、アメリカで映画を見る人の数と、中国のそれを比較してみてください。何桁違うと思いますか。誰がみても明らかでしょう。ハリウッドはもちろんお金が必要ですから、チャイナ・マネーに飛びつきました。
トム・クルーズと言えば『ラスト・サムライ』を思い出しますが、あの映画には対しては中国はお金を出していないと思います。日本を良く見せる映画など、中国は全く興味がありません。中国で作られている映画について、皆さんはご存知でしょう。戦争中の日本兵の蛮行を描くほど大ヒットしております。
言語政策
チャイナ・マネーの影響はハリウッドだけではありません。それは中国の言語政策にも現れております。孔子学院です。アメリカ中にどんどんと孔子学院が建てられていきました。各地の大学にも、地方都市のいたるところにもです。中国の偉大なる文明・文化とその言葉を勉強しましょう、という機運が全米で一斉に高まっていきました。
オバマ大統領の時です。多文化や多様性の重要性を指摘し、国際協調主義に傾いた結果なのでしょう。その時のアメリカは「ああ、俺たちは中国とこんなにも仲良くなった。これからは俺たちも北京語を学ばなければいけない」と、そんな雰囲気でした。
それでハッと気づいたら、私たちが使っているもの、食べるもの、そして家具から日常品まで、もちろんマスクや注射器も含めてですが、すべからずメイド・イン・チャイナになっておりました。トランプさんが大統領になられまして、初めて「おい、メイド・イン・USAはないのか」となりました。それでいわゆる「アメリカ・ファースト」(America First)政策が登場するわけです。中国に対して猛烈に圧力をかけていくこととなりました。
中国経済の潜在力
中国共産党は、アメリカ国内における中国の悪いイメージを払拭するためにハリウッドを使い、また言語政策を通して、中国文明・文化の偉大さを骨の髄まで浸透させようとした、ということです。これはトランプ以前のアメリカでは成功したと思っています。私は成功だけでなく、「中国はそれほど金があるのか」と思いました。
日本はバブルがはじけて「失われた10年」と言っておりましたが、私たちはすでに「失われた30年目」に突入しております。ここにコロナがドカンとやってきたわけです。ひょっとしたら日本の不況は、世界の大不況の中でさらに10年続くのではないかと心配しております。
一方、中国はこれを乗り越えるかもしれません。減速はするでしょう。しかしそれでもなお中国経済は世界のどの国・地域と比べてもいまだに巨大で成長し続けております。
西鋭夫のフーヴァーレポート
ハリウッドとプロパガンダ(2020年7月上旬号)- 2
この記事の著者
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。
西 鋭夫
1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。