「一帯一路」構想の行方

by 西 鋭夫 October 17th, 2024

富国強兵

かつて中国は偉大な国でした。その文明水準などから考えると、それは世界史的にも明らかなことだと思います。しかし近現代になり、それがガラッと変わります。中国を視察した明治維新の男たちは、その変わり果てた姿を目撃しました。すなわち、イギリスやフランス、ドイツに完全に牛耳られ、植民地にされ、イエロー・モンキーと蔑まれた中国人とその社会を目の当たりにしたのです。

維新政府は「これは危ない」と感じました。そこで脱亜入欧という、アジアから出てヨーロッパ文明の中に入らないといけない、という発想に至ったのです。そこで必要となったのが国を富ませて強い軍隊を作るということです。富国強兵政策がスタートすることとなりました。

日本の近代化とは言葉を変えれば、欧州列強にならってどんどんと日本を強くしていき、海外に植民地を作っていきましょうという政策です。この姿勢を歴史家たちは帝国主義などと呼んでおります。しかし皆さん、帝国主義でもって世界全体を統一した国はございません。完全なる帝国主義は夢のまた夢なのです。

 

窮地に立たされる中国

トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策によって、海外に進出していた多くの米国企業がアメリカ国内に戻ってきました。そこに新型コロナが襲ってきて、さらにこの動きが加速したとも言えます。トランプ大統領はまた国連やWHOに否定的で、露骨に批判してきました。

一方、中国はアジアやアフリカ諸国、さらにはイギリスまで味方につけて「一帯一路」を推進し、「アジアインフラ投資銀行」など、中国を基軸とした金融機関を設立しております。中国はその有り余るエネルギーを一帯一路に乗せて世界各国へと送り出しました。

その姿はさながら西欧とアジアをつないだシルクロードの現代版と言えるものです。野心的で大きな絵を描いたものだと思います。それは中国の新たな世界戦略の第一歩であると捉えることもできるでしょう。

 

コロナ危機

しかしながら、コウモリから生まれたコロナがこんなにも大騒ぎになるとは想像もしていなかったでしょう。皮肉なことに、コロナは一帯一路によってさらに拡大したと言えるかもしれません。

コロナによる影響は感染だけではなく、実際のビジネスにも甚大な被害を及ぼすでしょう。それが中国の一帯一路構想をさらに窮地に追い込むのではないかと考えます。聞こえてくるのは「感染のリスクがあるなら、金はいらない。感染者は出て行け」といった差別的、拒否的反応です。ひどいと感じる人もいるかもしれませんが、それが今、地球規模で起きております。

私のお友達の話ですが、アフリカのある国へ中国から潤沢なお金がドサーッと入りました。それで港を直して、そこから道路をダーッと作り、街のあちこちにお店ができました。しかし雇われているのは全て中国から来た中国人でして、コロナによって皆さん撤退されたようです。感染が怖いのですからしょうがありません。人も出歩けませんで、もうどうにもなりません。

「一帯一路」構想は残るでしょうし、これからも潰れないでしょう。しかしその実態は危機的状況です。土砂崩れを起こして、道はガラガラと割れています。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
人脈と政治力(2020年6月下旬号)- 11



この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。