技術革新と社会

by 西 鋭夫 September 26th, 2024

紙の発明

現在、さまざまな技術が毎日のように登場しておりますが、人類の歴史を眺めてみますと「紙」の発明前後では、その世界が大きく異なることに気づきます。

紙は中国で発明され、その後、世界各地へと広まり、爆発的な影響を与えていきました。日本には朝鮮半島を渡ってやってきましたが、日本でもその影響は非常に大きなものでした。まず朝廷による支配が、全国各地へと広まっていきました。奈良や京都からの命令が社会の隅々まで伝わっていったのです。この紙によって支配の範囲が劇的に広がっていったのです。仏教も日本全国にワッと広がりました。紙にお経を写し書きする、いわゆる写経ができるようになりました。これによって、仏教の考え方が全国各地に伝わっていったのです。

 

活版印刷機

次なる発明はグーテンベルクによる活版印刷機の発明です。報道関係をプレス(Press)と呼びますが、そのプレスというのは圧縮したり、押したりする意味があります。

グーテンベルクによるこの活版印刷機は、ワインをつくる樽から着想を得たようです。大きな樽にどっさりのブドウを入れて、その上からぐしゃっと押すわけですね。そうすると、美味しいぶどうジュースが出てきます。

その原理をいろいろと試行錯誤して出来たのが活版印刷機でした。樽にインクをたっぷり入れて、そこに鉛で作ったドイツのアルファベット文字を組み合わせた板を置き、紙を敷いて、そこに初めて「印刷」ということを試みました。


最初に擦られたのはもちろん聖書です。紙と羊の皮で作った聖書です。インクを樽に入れて、グーっと押し出すだけで、何百枚も刷ることができました。なお、このグーテンベルクが最初に作った聖書は、20冊から30冊ほど現存しているようで、1冊あたり数十億円のようです。慶應大学が1冊持っています。

 

パソコンへ

文字を刻印したものを、インクをセットした機械にて大量に印刷していくという発想は、その後の様々な技術へと引き継がれていきました。一つはパソコンです。我らが使っているパソコンは、アルファベットが書かれたボタンを押して、文字として刻印していくわけですが、その原型はタイプライターでした。私は博士論文をタイプライターで書いた世代です。タイプライターですから、ちょっとでも間違うと、全てやり直しでした。印刷する方は印刷機として発展していきます。インクは使いますが、プレスするという作業は無くなりました。

パソコンも、印刷も、若者たちの中ではもうすでに古いものとなっている可能性があります。若者たちはノートパソコンを持ち歩くというより、スマホ一台で何も不自由していないように思われます。何かを紙に印刷するなんてダサい。スマホで見ればいいじゃない。そんな世界です。しかし皆さん、画面越しに見る情報は記憶にも、心にも残りません。何かを読むのであれば、やはり印刷して読むべきだと思います。

文字情報ではなく、絵や動画でもって伝えていくことが最新のトレンドのようです。Facebookも一世を風靡(ふうび)しましたが、若者世代からすると文字が多く、それはもうおじさん、おばさんが使うものと見なされているようです。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
人脈と政治力(2020年6月下旬号)- 6


 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。