植民地政策と移民

by 西 鋭夫 August 12th, 2024

帝国主義

明治日本は初めから海外移民に関心を持っていたわけではありませんでした。しかし、北海道の開拓に成功した後は、アジアで獲得した植民地に対して日本人をどんどんと送り出していくようになります。

この発想はどこからやってきたのか。それは欧州列強による帝国主義のあり方です。明治政府は大英帝国のやり方はもちろん、フランスやロシアがたどってきた歴史をじっくりと研究し、どうしたら自分たちの版図を着実に広げていけるかについて考えておりました。

実際、明治維新の若いお兄ちゃんたちは、「ああ、帝国というのはこういうやり方で大きくなっていくのか」と学んでおります。

 

国内浄化

では実際のところはどうだったのか。代表例は大英帝国ですが、皆さん、あそこはイギリス本土で犯罪を起こしたり、ろくな奴でないとわかったりすると、イギリスから遠く離れたところへ連れていきました。代表例は、南極に近いオーストラリアです。犯罪者たちを捨てにいったようなものです。

そうするとオーストラリアにいた原住民たちはどうなってしまったのでしょうか。まずは病気です。病気が蔓延し大勢が死にました。自分たちの住む場所を確保するために、強引な立ち退き政策も進めました。抵抗すれば武力で制圧したわけです。

 

愛国者

とはいえ、囚人たちは「いつか本国へ帰りたい」と思っていたのです。この気持ちが長い間続くと、それは国への愛情、国を思う気持ちに変わっていきます。遠くに捨てられた囚人ほど、国を思う気持ちが強くなり、愛国者となっていきます。

出来の良い囚人はそこの監督官から「おまえはこのポジションにつけ、そしてこれをしろ」と言われます。そのポストを無難にこなしていく過程で、愛国心を身にまとった囚人あがりの監督官が生まれていくのです。この方法で、英国の植民地にはたくさんの囚人たちが送られていくわけですが、各地では愛国心を持った男たちがどんどんと誕生しているわけです。これにより、英国への忠誠を払う地域が海外各所で増えていきました。

フランスも同じです。あちこちの植民地に出来の悪いフランス人たちを捨てに行きました。そうすると、本国を恨むのではなく「俺は早く本国に帰りたい。しかし今はここだから、早く頑張って帰りたい」という気持ちが芽生え、愛国者になっていきます。そんな囚人たちが1代目、2代目となって増えていくと、その土地が帝国の領土として着実に統治されていくようになるのです。なんと賢いやり方だろうと思います。

 

西鋭夫のフーヴァーレポート
日系移民の悲劇(2020年5月上旬号)- 5





 

 

この記事の著者

西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。

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西 鋭夫

西 鋭夫

1941年大阪生まれ。関西学院大学文学部卒業後、ワシントン大学大学院に学ぶ。
同大学院で修士号と博士号取得(国際政治・教育学博士) J・ウォルター・トンプソン広告代理店に勤務後1977年よりスタンフォード大学フーヴァー研究所博士号取得研究員。それより現在まで、スタンフォード大学フーヴァー研究所教授。