From: 岡崎 匡史
研究室より
「東宮御学問所」で倫理を担当した在野の教育者・杉浦重剛(1855〜1924年)。
彼は、いかなる信念をもって、倫理を教えたのか?
その神髄は、杉浦が御進講のために作成したテキストに書かれている。
「倫理の教科たる唯口に之を説くのみにして足れりとすべからず。必ずや実践躬行身を以て之を証するにあらざれば 其の効果を収むること難し」
杉浦は、倫理を口で説くのはたやすい。重要なことは、倫理を実行すること。「実践躬行」(じっせんきゅうこう)こそが、倫理の要であるとした。
知徳合一
杉浦自身、自分の一挙手一投足を、皇太子殿下がご覧になっている。だから、皇太子殿下が杉浦の行動を真似ても、不自然にならないように心がけた。
杉浦は、自分が試験されるような気持ちで授業に臨んでいた。
「倫理」を教えるのは難しい。
現在の日本でも、高校や大学で「倫理」の科目がある。センター試験でも「倫理」がある。日本には、数千、数万人もの倫理の教師がいる。はたして、この倫理の教師たちは「倫理的」なのだろうか?
知識として、プラトンやアリストテレス、イエス・キリストや孔子など偉人を知っている。しかし、倫理の知識を得たからといって「倫理的」な人間になれるのか。
多くの人々が、口先だけで終わってしまう。もし、日本の天皇となる人物が、口先だけの倫理を説いたらどうなるか。国家の中心になりえない。だから、杉浦重剛は「実践躬行」を力説したのである。
杉浦重剛は「教育勅語」の御進講もしている。11回にわたり、懇切丁寧に「教育勅語」を講義した。
傳通院
昭和天皇の「倫理」の教師であった杉浦重剛は、1924(大正13)年2月13日に亡くなる。68歳の人生であった。
杉浦重剛は、東京文京区の傳通院(でんつういん)に眠っている。
傳通院は、徳川将軍家の菩提寺としても有名。
傳通院に入ると、杉浦重剛の墓道がある。
著名な方が多く眠っているのに、杉浦重剛にだけ墓道の石碑がある。
敬愛されてきた証である。
ー岡崎 匡史
PS. 以下の文献を参考にしました。
・杉浦重剛『昭和天皇の学ばれた教育勅語』所功解説(勉誠出版、2006年)
・杉浦重剛『昭和天皇の学ばれた「倫理」』所功解説(勉誠出版、2008年)
この記事の著者
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。
岡崎匡史
日本大学大学院総合科学研究科博士課程修了。博士(学術)学位取得。西鋭夫に師事し、博士論文を書き上げ、著書『日本占領と宗教改革』は、大平正芳記念賞特別賞・国際文化表現学会学会賞・日本法政学会賞奨励賞を受賞。